2010/05/04

氏家ト全「生徒会役員共」 - 少子化があまりに深刻で…!

氏家ト全「生徒会役員共」第1巻 
参考リンク:Wikipedia「生徒会役員共」
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筆者がかってに考えた『下ネタギャグまんが家の御三家』の一角として、竹内元紀・古賀亮一らとともに高みに並び立つ、われらが氏家ト全センセイ。以下で話題になる「生徒会役員共」(2007)は、その現在の少年マガジン掲載作で、『ほぼ』題名どおりの内容の学園4コマ。単行本は第3巻まで刊行中(KC少年マガジン)、そして『近日TVアニメ化』とのアナウンスもあり(4月28日付・少年マガジン誌上)。

で、まずは作品の周囲の話題から。生徒会とその活動を描くまんが作品が、近ごろみょうに多いような気がするのは、おそらく錯覚じゃない感じ…と考えて調べていたら、Wikipedia「生徒会を題材とした作品」(ライトノベルを含む)という資料がめっかった。
これでも十分に『多い』と言えそうだが、さらに、このリストからもれている作品の数が、おそらくかなりにのぼりそう。何せ、当代の少女まんがの大ヒット作「会長はメイド様!」すらが、もれているくらいだから(現時点において)。
ともかくそのリストをざっと眺めてみると、その中にヴィンテージ級の名作は、一条ゆかり「有閑倶楽部」(1980)だけ。あとの大部分は、せいぜいLate 1990's以降の作品っぽい。するとやっぱり、筆者の感じは錯覚でなさそう。

そして、『なぜいま、生徒会のまんがなのか?』という問題についてちょっと考えると、まんが全盛期の作品らが基本『反権力』で、反抗を大いに肯定的に描くものだったのに対し、いまはそればかりじゃないらしい、というふしがある。
そういえば、日本という国家自体が衰亡に向かっているのではないか、という認識が、むかしはなかったように思うし。また、うかつに反抗を実践すると体制が根本的に壊れてしまうのではないか、という心配が、いまはなくもない感じだし。そういう時代のふんいきに対応したものとしての、『生徒会のまんが』なのだろうか?
というところでギャグの作例らを見てみると、河田雄志+行徒「学園革命伝ミツルギ」(2005)の主人公らは、少子化にともなう生徒数の減少、という問題にギャグで対応しようとしてるのだし。また今作「生徒会役員共」の舞台の学園もまた、『少子化の影響』によって、女子校から共学になったのだし。

てなわけで、尻すぼみに衰亡している社会と、それを(ともかくも)支えようとしている体制の危うさ、といった認識が、『生徒会のまんが』出まくりという現況の背後にあるのかな、という気がしてきた。

 ――― 氏家ト全「生徒会役員共」, 『ストイック学園』(第1巻, p.26)より ―――
女子校の名門だった『桜才学園』の男子生徒1号となったヒーロー≪津田くん≫が、むりやり生徒会の副会長にさせられてしまう。で、彼が生徒手帳を見ると、学校の校則がきびしいのでびっくり。恋愛禁止、ヘアカラー禁止、買い食い禁止、等々と。
にしてもきびしすぎなのでは、という相談になったところで生徒会長の女子≪シノ≫は、思い切った大英断をおこなう。いわく、『では 恋愛はダメだが オナ禁は解禁しよう』。

あたりまえだが、いくら厳格な学園でも、オナ禁という校則はないのだった。ここでは、『禁じられていないことの実行を許す』ということで≪何か≫をしたような気になっている権力、その根本的な戯画性、ということが描かれているかな、という気がする。

さらにまた、生徒会役員らが、この社会の少子化が深刻だ、という話をしていると、シノはみょうにまじめな表情をして、『我々生徒会も できるかぎりのことを やろう』と言い出す。すなわち、『将来 性行為 する際は 常に○出しだ』(第1巻, p.50)。
…と聞いて『よく臆面も なく言えるな』と津田くんがツッコんでいるように、くだらないのではあるが。しかし『場当たりの策にすぎる』という点でそれは、現在までの政府の少子化対策案らと、何ら選ぶ所がない。

それこれ見ていると。これ以前の氏家作品に関して筆者は、『風刺的』という特徴をあまり感じたことがなかったが、ここらでそういう面が出てきているかな、という気がしてきたのだった。
かくてこの作品「生徒会役員共」は、権力の中枢にとぐろをまく下劣さを遠廻しにえぐり出しながら、しかしそれを完全に撥無しているのではない。くそまじめでありつつもおかしいことばかり言っているシノ会長の前でわれわれは、ヒーローの津田くんとともに、反応に困る。この困っている状態の、甘からく痛がゆい心のうずきが、今作のひとまず描いているところであろうかと。

とまでをイントロとして見ておいて、「生徒会役員共」の話題は、遠からずまた!

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