2010/05/07

杉本ペロ「俺様は?(なぞ)」 - ぱわふるみらくるガマン大会!

杉本ペロ「俺様は?(なぞ)」第1巻 
参考リンク:作品データベース「俺様は?(なぞ)」
関連記事:杉本ペロ「ダイナマ伊藤!」 - 心はマジだが、立場的には冗談

人気のないブログで人気のない作品を話題にするなんて、まったくもってのガマン大会の挙行みたいなものだ。とはいえ当家の事情として、ゆうべこの杉本ペロ「俺様は?(なぞ)」全4巻(少年サンデーコミックス)をうっかり読み返してしまったので、そのタイミングで記事にしておきたいのだった。
さてこれが、2003年から2年間ばかり、週刊少年サンデーに載っていたショート形式のギャグまんが作品なのだが。そして参考リンク先のユーザーによる評価を見ると、まず今作の存在は、その時期のサンデー読者たちにとってのガマン大会であったらしく。しかも筆者が見た感じだと、作品の全般的ふんいき自体が、その第2巻あたりから苦しまぎれのガマン大会チックになっているとは痛い!

で、どう言ったら何かが伝わるのか、と苦しみながら。さいしょに筆者の全般的な感想でも書いておくと、少なくとも今作は『たまには読み返したくなる作品』だ、とは言える。そしてそのたびに『これはいったい“何”であろうか?』という疑問で、その『読み』が終りなきものとして終わるのだ。
よって「俺様は?(なぞ)」という今作の題名には、まったくいつわりがなさすぎだ。そしてその性格が、さいしょから答の用意された問いを好む方々の反発を誘っている。

だいたいペロ先生の創作態度として、なぞを提示しておいて答は出さないというところは、これの前作「ダイナマ伊藤」からして見うけられる。で、それはいいと、筆者は考える。こんなところでカフカの名前を出すのも何だが、そっちの超メイ作らにしたって永遠のなぞまみれであり、公式の答などはどこにもないのだから。
ただし『なぞ』というにも、人の喰いつくようななぞと、そうでないものがあろう。まず、『何かのひと押しでとけそうななぞ』には、人を誘う要素がある。またその一方、とけそうになくとも、あまりに重大で差し迫ったなぞであれば、いやおうなく人はそれに向き合う。
そういうところから、事後的・遡及的に申すと、今作のなぞ構成に難がないとは、とても言えない。『とけそうもないなぞ、しかも“俺様には関係ない!”』のように見られては読者の関心を失ってしまうわけだが、惜しくもそっちへ傾いちゃっている感じがぜんぜんなくはない。

ともかくもまあ、この「俺様は?」がどういったお話なのか、その第1話『レッスル馬鹿』あたりを見ておくと。

物語の語り手≪笠井くん≫は、超ネガティブ思考の小学生。ある日、彼のクラスの3年D組に『大物でわがままな』転校生がくるといううわさを聞いて、『きっと 僕は いじめられるん だろうな……』と、朝っぱらからさっそくブルーなことを思考中。
そこへ担任のよし子先生に先導されて教室へ入ってきた転校生は、デストロイヤーのような白マスクをかぶった、身長2mのマッチョマン(!)。あまりに大きすぎて入るさい、戸口にガツンとおでこをぶつけてしまう。そしてそのおでこには、『?』の文字。
みんなあっけにとられ、笠井くんが『小学生なの?』と問いかけると、大男は『俺様はどう 見ても小学生だ コノヤロウ!』と、ひじょうに無理なことを言い張る。まあよく見ると、その着ているTシャツに、大きな字で『小三』と書いてはある。ただしさらによく見ると、『小一』と書かれていたものを、後から修正した気配がある(!)。

で、ともかくもよし子先生が、『みんなに自己紹介を』…と持ちかけるも、大男はものすごい顔をして、『俺様には関係ない!』、『なんだコノヤロウ!』と、そんなことばっかしを言ってやがり、まったく会話が成立しない。しまいに怒った先生が、『関係ないなら出ていきなさい!』と命じるが、そこでまた『俺様には関係ない!』の一点張り。
これらを見ていた≪国鉄くん≫と呼ばれる七三メガネのオタク少年が、『彼はプロレスのマスクマンであるに違いない、覆面レスラーに素性をたずねるのはヤボの骨頂です』的なことを言い出す。しかし大男は自分をレスラーであるとも認めず、あくまでも一介の小学生を言い張る(!)。

と、そんなことでもめているうちに、大男のマスクの内側から、たら~りと血が流れ出してくる。さっき戸口にはげしくぶつかったところから、血が出てきたのだ。それを見た大男は、『壁コノヤロウ~』と怒りに燃え、そしてブチきれて、逆襲の頭突きで戸口の壁を『ドゴッ バゴッ』とこなごなに粉砕!
するとあちこちのものが倒れたり崩れてきたりするので、『ドア コノヤロウ!』、『柱 コノヤロウ!』と叫びながら、大男は超もうぜんと暴れまくり! しばし一同あぜんとしていたが、やがてよし子先生が、『教室ぶっ壊す気ィ!? 馬鹿っ!!』と叫んで、大男にビンタ一閃! ところが大男は『女教師コノヤロウ!』と叫んで、ふらちにもよし子先生にまで頭突きをかましてノックアウトしてしまう…ッ!

ちなみに今作で『女教師』には、『にょきょうし』とルビ。筆者は『じょきょうし』と読むように思っていたが、『にょ』の方が何となくいやらしい感じ。ところがその語感のいやらしさが今作では、まったく宙に浮いているのだ。

と言ったところで今作の『ヒロイン』と言えなくもない人物、われらがよし子先生をご紹介。この方は大分出身、年齢はヒミツだが『婚期を逸しかけ』というあたり、すなわち独身、どうでもいいけど広島カープのファン、そしてブサイクでも美人でもなくて、全般的にはひたすらに地味。
ところがこの地味すぎる『にょきょうし』が、のちに≪俺様君≫と呼ばれる大男の出現をきっかけに、みょうに輝き出すのだ。ただしその輝きが、ひじょうにあやし~い色調ではありつつも。

すなわち。どうしてそんなにタフなのか、俺様君からいいのを喰らっても、よし子先生はぜったい退かずにやり返す(!)。そうすることで教育者としての意地を見せまくるのだが、しかしその反面、ふつうの授業をまったくやらなくなってしまう(!)。
さらに俺様君に関係ないところでも先生は、すだれハゲの教頭からプロポーズされて『セクハラ!』とテンパッたり、急にアイドルを気取ってはでに着飾り『よっしー』を名のったりと、いたるところで大暴走。…かって俺様君の出現以前はまともだった(らしい)D組が、お話の進行とともにどんどんメチャクチャになっていく、プロレスチックな大暴れと下ネタの巣くつになってしまう、その先陣として、われらのよっしーは突っ走るのだ。

さらに先生の暴走は、相手が常人なら10人くらいを一撃で吹っ飛ばす猛者になったり(!)、そうして刑務所とシャバとを平気で往復していたり(!)、というところにまでエスカレート。ルックス的にも、こっけいな有為転変の描写あり。というよっしー先生が、一般的にはあまり好感を持たれなさそうな感じだが…。
しかし筆者はふしぎと、このキャラクターにひかれるところが大いにある。だから『教頭先生からのプロポーズ』というイベント(第1巻, p.42)は、ショッキングではありながら『あることかも』という感じで受けとめられる。
なぜなのかって、『何の説明もなくて異常にパワフル』だという、そこがいいのだろうか? ちょっとそこは、自分でもよく分からない点だ。ただし『何の説明もなく』というポイントはきっぱりと重要で、あさはかな設定がついていないところがよい。逆に申して設定過剰なきょうびのまんがらについて、筆者はいい印象がない。

なんてまあ、わずかを語っただけなのに夜もふけて、そしてこの堕文がすでにじゅうぶん長い(!)。で、それから俺様君の大暴走が相次いだり、その正体等のなぞをつきとめようという動きがあったり、として今作は展開する。…と言ってすませたいのだが…。
けれど今作「俺様は?」について、『その主筋はこう』、ということはひじょうに言いにくい。というか、誰にも言えない。むしろこれについては、『どういう人がどういう期待をもって読み始めても、その期待は必ず裏切られる』、とも言えそうな気がする。

たとえばの話、『俺様君の正体さがし』というモチーフが、第1巻の巻末あたりで盛り上がる。そこがある意味、今作でいちばんトーンの上がっているところなのだが、しかしその上がったふんいきは宙に浮いたまま、どこかへ帰するということがない。
そうして俺様君の正体が分からないばかりか、そのライバルとして出現したような≪うんこマスク≫や≪なぞのボス≫らの正体も分からない。さらには比較的素性の明らかな人物ら、笠井くんや国鉄くんやよし子先生についてさえ、『こういう人』ということがよくは分からないままに、この物語は終わっている。

で、このたび読み返してみたら、さいごの方で『仮想現実』として展開しているところ、そしてなぞのボスによるサイキックな仕掛けが「ジョジョの奇妙な冒険」の『スタンド攻撃』を思わせる、なんてところに、筆者は新たな印象を受けた。けれどもそこらをキーにしたところで、今作に対するすじの通った読み方ってものは、できなさそうに感じられる。
そして、このように拡散しきっているところがいいのだ…とは、さすがの筆者にも強弁できない。ちなみにここらで申すと、今作の15から20%ほどの部分は人物らのプロ野球談義からできており、そこが筆者にはまったく面白くない(ヤキュー知らないし)。

かくて今作については、『ひとにすすめられる作品ではぜんぜんない』、ということばかりが確かだが。オレさまにしたって『俺様には関係ない!』、と言いたい気もするのだが。
けれども筆者は「俺様は?」を駄作とも愚作とも言いきれず、むしろ何かの『挑むべき1つの秘境』かのように見ることがやめられないのだった。そこに何らかのひかれるものがある、それは何かという『?』の究明、すなわちたった1人でのガマン大会を、ふしぎとギブアップしきれないのだった。…とまで申して、さらに続くかも(?)。

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