2010/11/07

櫻井リヤ「仮スマ」 - 仮面のカリスマの告白!

櫻井リヤ「仮スマ」第1巻
櫻井リヤ
「仮スマ」第1巻
 
参考リンク:Wikipedia「仮スマ」

たまには、あまり黒くないハッピーなお作品をご紹介! こちら櫻井リヤ先生の「仮スマ」は、『華やかな芸能界で繰り広げる大爆笑ビジュアル系ギャグ!!』。
今作は2001年のザ・マーガレットにて初登場、追って本誌のマーガレットに進出して掲載中。単行本は、第6巻まで既刊(マーガレット・コミックス)。自由なショート形式の作品で、ひじょうに読みやすく親しみやすい。

1. まったく謎に包まれたままの、その実体!?

ではまず、この作品のヒーローの≪サク≫をご紹介いたすれば。

――― 「仮スマ」第1巻より, 『カリスマアーティスト』(p.3) ―――
超人気アーティスト サク
その歌唱力とルックスで 若い女性達を虜(とりこ)に している
だが自らを ほとんど 語ろうとしないため
彼の素性は まったく謎に包まれた ままだ

さてこの白面で長身の美形カリスマアーティスト、その『素性』がどんなかというと。それが本名を≪米俵豊作≫という、ものすごいイナカから出てきた地味ぃ~な青年。顔の地味さをメイクでごまかしているので、属性として水分にきわめて弱い。
その素顔が、どれだけ地味なのか。初期のお話で豊作くんが、顔を隠して外出するエピソードあり。すると案のじょうサクの大ファンの女子たちに出くわし、思わずジタバタした拍子に、帽子とグラサンが取れてしまう。…しかし女子らは『なんなのよアンタ!!』と言うばかりで、何も気づかない(!)。そこで『変装の 意味ナシ!!』と、豊作くんはさとる。

さらに豊作くんは、単に地味というばかりか、着るものが野良着とジャージしかないようなド辺境の出身で、ふだんのセンスが異様にダサい、古臭い、そして地道すぎ。お金はあっても六畳ひと間の風呂なしアパートに住まい、食事はまめまめしく自炊。ついでに幼児的という面もあって、女性関係まったくなしどころか、男女の手がふれると子どもができると考えている。

そんなわけなので仮面のカリスマ、「仮スマ」というわけか。あとひじょうにショッキングなのは、彼のことばのなまり。『~やがも』とか『~だっち』とかいう語尾が印象的で、意味は分かるけれど聞いたことのないものであり、『どんだけ奥地の出身!?』という感じを大いに盛り上げている。
サクとしてはいちおう標準語を操っているけれど、しかしその『米俵弁』が、そんなには隠しきれていない。こんなお話があり。

――― 「仮スマ」第1巻より, 『演技』(p.34) ―――
【演出家】 (イメージビデオを撮影中、)次のシーン サクは――
服を脱いで シャワーに向かう いいね?
【サク】 はい(…カメラが廻るとサクは、脱いだ服を正座してキチキチ折りたたむ)
【演出家】 (怒って、)たたまなくて いーんだよ!! 脱ぎ捨てろ!!
【サク】 (名前入りの白ブリーフいっちょで、)かあちゃんの 教えだっちに――

これをイケメンのよそいき顔で、みょうにきれいに直立して言いやがる。というわけで、サクをサポートしているスタッフたちは、彼がすごいイナカものということを、ぜんぜん知らないわけではない。あまりごまかしきれていないのだが、しかしあえてスルーしてくれているらしい。

2. 『てーんで わからんちども まあ よかちぬー』

なまりの話題で押していくと、こんなエピソードも。サクは海外のプロデューサーと仕事することになり、レセプションで向こうはペラペラと外国語で話しかけてくる。するとサクはスマイルし、負けずに一方的にしゃべくる。

【外国の人】 Mie Oinem kuf dielina layudk dul...
【サク】 てーんで わからんちども まあ よかちぬ――
なんしゃべとーも けぇとつかんが よかひとなぬくさ――

いま初めて気づいたのだが、この場面の白人らしきプロデューサーのおしゃべりが、何語なのか分からない。そしてサクの米俵弁も、どこの方言か分からないを通り越して、もはやニホン語っぽくない。
なのでこのシーンをテレビで見ている人々は、サクが何らかの外国語を操っていると思い込んで感心するのだった。ゆえに題して、『バイリンガル』(第1巻, p.47)。いやほんとうに、一種のバイリンガルと言えないこともない!

さらに、こんなお話が。地方巡業に出たサク、ホテルの部屋での打ち上げに参加。すると誰かが、『ジャンケンで 負けたヤツは イッキ飲みな!』と言い出す。バスローブ姿か何かでリラックスしているサクは、『ハハッ おもしろそうですね』と、よゆうで受けて立つ。
そしてジャンケンをする運びになるとサクは、『もんじゃらけ~ ポ~~』と、ぜんぜんわけの分からないことを言い出す。それも、みょうにとびっきりのイケメン顔を作ってそんなことを言い、そのこぶしを振るのだった(第1巻, p.136)。

【サク】 もんじゃらけ~ ポ~~
【その場の人】 なっ なんなんスか それ!?
【サク】 じゃんけんの かけ声…
【その場の人】 「ジャンケン ポン」でしょ!?

『ジャンケンポン!』の方言といえば、筆者が小さいころの東京足立区では、『チッ!ケッ!タッ!』という言い方がイカスとされていた。歯切れよく、より気合いがこもるような言い方になっていたわけだが、しかし『もんじゃらけ~ ポ~』では、それとはまるで逆! どこにも気合いの入りようがない!
あまりにゆるすぎて、逆にショッキング。かつ、この『もんじゃらけ~ ポ~』には、どこぞの体毛がもんじゃらけ~くらいのニュアンスもありそうな感じだが、まあそこは追求しない。

それからやり直しで、『じゃーんけん』…というかけ声に続き、こんどサクがどうするかというと。『チョキ!!』と叫んで彼は、両手の人差し指を高い場所で組み、みょうに大きなポーズでバッテンを作る!
サク本人は顔を赤くして必死だが、ちょっとこれには威圧的なしぐさという感じもある。それを見せられた歌手仲間はびっくりして、『なんじゃ そら~!? こえーよ』とツッコむのだった。

というわけで筆者の感じ、この作品では、まず何しろ米俵弁がすごい。こんな方言がどっかにはあるの?…とは誰もが思うようなところだったらしく、単行本のどこかで作者さまが種明かしをされている。
それが丸っきり架空の方言で、作者の考案になるものだそう。エセ方言にしても出来すぎで、これのテンポなきテンポが、今作「仮スマ」のムードを決定づけているとは言えそう。

3. みんないっしょに、『もんじゃらけ~』

さてこの「仮スマ」も、第3巻を過ぎたころから、わりと誰にも見えたことがあると思う。それはこの≪サク=豊作くん≫が、とんだこっけいなおどけ者にも見えながら、実はたいへん好ましい男子なのではないかと。それは筆者が、できれば少女まんがの一般的な読者の身になって考えよう、として感じたのだが。

つまりサクのハデハデしさと輝く才能に対して、豊作くんの実直まじめさや生活力の豊かさ、人のよさ誠実さ、そして農作業できたえたフィジカルの超強さなどもまた、女性らから見て魅力的でないということはないのでは。つまり、いわゆる『1粒で2度おいしい』キャラクターになっているのではなかろうか?
お話の作り方として、キャラクターには第2の側面、ウラの顔、『実は…』というポイントを持たせろと、よく言われる。その方が、より好かれるから。そういうものとして、これは大いに成功していると思われるのだ。

かつまた今作には、装うということや≪仮面≫という主題について、考えさせられるようなところもあるにはある。けれどあまりむずかしくは考えず、『もんじゃらけ~』と言いながら豊作くんを眺め、ゆかいな気分でひとまず終わりたい。次にこの作品を見るときには、今作のびっくりなラブコメ展開について、おそらく!

0 件のコメント:

コメントを投稿