2010/09/28

「ルノアール兄弟の愛した大童貞」 - Let's ビギン! みんなで童貞を語ろうZEッ!

ルノアール兄弟「ルノアール兄弟の愛した大童貞」第1巻 
参考リンク:Wikipedia「ルノアール兄弟」, 少年シリウス Web漫画「ルノアール兄弟の愛した大童貞」, 関連記事:ラベル「獣国志」

関連記事で見た「獣国志」に続いて、こちらの作者さまが崇高な『童貞論』をとうとうと物語る作品、「ルノアール兄弟の愛した大童貞」。童貞ブーム渦中の大いなる話題作(?)、少年シリウスのWebにて掲載中(2006-)、シリウスKCとして第1巻が既刊。

念のためだけど、お話の概要を記しておけば。エロに飢えまくった中坊3匹がある日、見張りのゆるい書店でエロ本を立ち読み中、そこを自主的に警備していた青年に、『袋とじを開けようとするとは言語道断!』などと叱られてしまう。
その、白のランニングに白ブリーフいっちょ、そしてサンバイザーにハダシという姿のあやしい青年は、≪土毛智樹(どげ・ともき)≫と名のる。そして『そんなに見たければ』と言い、『袋とじの中が透けて見えるメガネ』というSFふしぎアイテムを、一瞬だけ貸してくれる。その効果に少年たちは驚倒し、一瞬だけうっかり感動してしまう。
そして土毛の言うに、それは江戸時代の≪大童貞・ドゲレツ斎≫という偉人の発明品なのだとか。『その生涯を シコることのみに捧げた偉人』が、『現代科学をも凌駕する ジョークグッズを次々と 発明したのだ』…うんぬん、という土毛の長々しい口上を聞いているうち、やがて少年たちは興奮からさめて引きの態勢へ。

ところが土毛の方はノリノリで、運の悪い少年らを彼の拠点の空き地へ連れ込んで、えらそうにも正座までさせて、

 『おまえらは 全然気合いが 足りない!! もっと真剣にシコれ!! 
 若いうちの シコリ方で 全てが決まるんだ!!』

等々と、まったくど~でもい~い訓話を延々~と聞かせるのだった。ドゲレツ斎の遺した『ドゲレツ大百科』という、たぶん貴重そうな和とじの書物をふりかざしながら。
で、これをきっかけにあわれな少年3匹は、押しかけ師匠の土毛から『おまえらが 平成の大童貞なのだ!』と見込まれて、彼の噴飯もの的な『童貞学』を、さんざんに仕込まれるハメになるのだった…っ!

といったお話が、現在まで続いている感じ。ところでこの、かなりさえない少年ら3人の名字が、『錦織・東山・植草』というのだが。
だがしかし、こんなお話らに20話以上もつきあって、筆者にはいまだ、彼らの顔と名前とが一致しない。…あっ、ここでボケ気味とか言わないで!
そのネーミング、『少年隊』メンバーの名前の借用は、出オチギャグとしては、けっこう面白かったと思うが。けれどもそれは『名は体を表す』の反対すぎであり、人間心理の傾向に逆らいすぎなのだ。いにしえまんがの、≪タンク・タンクロー≫とか≪コロッケ5円の助≫とかいう異様に印象的なネーミングがあったが、あれらに対するアンチテーゼではありつつも。

あと。ここまで書いてきてから何だが、通販のページに『出版社・メーカーからのコメント』として出ている今作の宣伝文を引用いたしとく(*)。

『立てよ、童貞!! 江戸時代より受け継がれてきた称号、大童貞!! その第12代大童貞である土毛智樹が街にやってきた。奇跡的邂逅により、土毛に魅入られた中学生三人組、錦織、東山、植草は次代の大童貞候補生にされてしまう。土毛の珍奇な指導によって、次々と騒動が!! 愛すべき読者諸君よ!! これが青春だ!!』

な~るほどねえ。オレがわざわざへんなこと書かず、はなからこれを引用して、『このような作品であるっ』と、すましていればよかった! ただしこれを見て、『宣伝文』と『紹介文』とでは調子が同じにならない、ということも分かりつつ。



さてなんだが、このお話のおかしいところのほとんどは、すでにいま見た第1話へと、集約的に描かれてしまっている。

まず。中学生である少年3匹が童貞であること、そしてエロ本を見たくてたまらないことは、ひじょうにノーマルな状態だとしよう。…あっ、万がいちそうじゃなく、中学のときからヤリチンだったような子は、いますぐ教室から出て行きなさい! 先生プンプンだよ、もうっ!!

で。こっちのノーマルな中学生クンらは、性交を実行するまでに成熟していないので童貞であり、そして性交の代替として、エロ本鑑賞やマスターベーションをしたいのだ、としておこう。
が、その一方、土毛および彼の先人らは、すでにりっぱな大人のような年齢になってまで、童貞でありつつ自慰を超はげむ。そして、ただ単にそれをはげむのは本人らの自由だが、しかし『ねばならぬ』という義務っぽさが、そのあり方についていることがふかしぎだ。
そのまた一方、僧侶的な方々の方面にむかしから、享楽としての≪性≫をけがれと見てそこから自分を遠ざけ『ねばならぬ』、というアチチュードがあるようだが。しかし土毛らはそれとも異なり、享楽としての≪性≫のイメージを消費することには、まったくためらいがないどころか。

つまり、トラディショナルな童貞のあり方には、≪少年型(=未成熟)≫と≪僧侶型(=ストイック)≫、という2種類があるとする。そしてニューウェイブ童貞の土毛らは、≪少年型≫からは『エロ本等により自慰にまい進』という行動スタイルを受けとり、≪僧侶型≫からは『せねばならぬ』という義務っぽさを受けとっているのだ。

それこれ見てくれば、作中の少年らが土毛に対し、半分惹かれて半分ドン引き、という心境にあることのふしぎ(?)も理解できてくる。とりあえず自慰にはげもうとしている彼らにとって土毛は、『何か(ノウハウ的なこと等)を知っていると想定された者』ではある。がしかし土毛が、いいトシこいて童貞であるという部分は、ぜんぜんうらやましくないし見習いたくない。
自慰という行為を少年たちは、『(きもちいいけど)経過的なもの』、と考えたい。そしていずれはヤリチンだか『リア充』だかになりたいと思っているのに、しかし土毛はその自慰を、目的として追求せよ、みたく言うのだ。そこがおかしいと、少年らは(無意識にも)考えているはず。

で、「獣国志」を論じた関連記事でも述べたことだが。『童貞』という熟語を1文字ずつ、『童』と『貞』とに分割してみる。すると、その前者が≪少年型≫、後者が≪僧侶型≫を表しているような気にもなってくる。そうすると、この語はもともと、コンベンショナルな童貞の2タイプをあわせて表現しているのかな、という気もしてくる。
で、関連記事でも述べたようなことだが。けっきょく土毛らのニューウェイブ童貞は、口先ではやたら『貞』を訴えてカッコをつけながら、しかしその実、『童』であり続けようというところに真の目的があるのではなかろうか、と。
…どこらが『童』かって、説明するのもめんどうになってきたが、もはや子どもでも学生でもないのに、土毛はりっぱな無職だし。そしてまともな住所もない彼は、『土管の置かれた空き地』という、いにしえの子どもたちの魂の集うような場所、言わば≪童≫らの聖なるトポスに住み着いていやがるのだった。

そして筆者は、そのニューウェイブ童貞と呼んでみたものを、『オーセンティックな童貞の2タイプを止揚した、すばらしい新境地!』などと言う気はしない。ただし、土毛のように怠惰なナルシストが自分の中にはいない、ともけっして言わない。
これを娯しんで見ているわれわれ“誰も”は、土毛に見込まれてしまった少年らと同じで、彼に対して『半分惹かれて半分ドン引き』という状態にあるはずだ。そしてそのわけのわからぬ心境の受けいれ難さに対し、『笑い』という肉体の反応を返しているのだ。

ルノアール兄弟「獣国志」ところでなんだが、この堕文のさいごに。今作こと「大童貞」を、同じく童貞を語ったルノアール兄弟の初期作品「獣国志」に比べると。
テーマがはっきりしている分だけ、よけいっぽい情報性がなくなっている分だけ、こちらの「大童貞」の方が、すなおに笑える作品になっているとは思う。だがしかし。
がしかし筆者は「獣国志」の、『“何”を描いているのか作者にも分かっていない』…のように見えるところから、描くことの継続によって、その無意識の≪何か≫がうっすら描かれてくる、そうしたあり方にも魅かれるところがあるのだった。ただしそのような描き方は、たぶん『初期作品』ならではのものなのではあろう。
あと、まともな女性キャラクターがほとんど描かれていなかった感じの「獣国志」に比すれば、今作にはいちおう『かわいい』とも言えそうな女子や女性が描かれている。そこもまあ、作品の見やすさ読みやすさに貢献してはいよう。

そうして筆者が、一種のヒキをかますと。土毛的なニューウェイブ童貞のことは、もうわれわれは、よぉ~く分かったとして(!)。
だが、そのまた一方に、『一見りっぱな社会人でありながら、特にわけもなく童貞』という、もう1種類のニューウェイブ童貞がいることをも、われわれは見なければならないだろう。いま言う『草食系男子』とは、そういうやからのことなのだろうか?
われらがいままでに見てきた作品だと、桜井のりお「みつどもえ」のヒーロー格の≪矢部っち≫が、わりとそう。そして今作「大童貞」では、第16話から登場の、少年らの担任≪兜川先生≫が、またそのタイプ。

ま、矢部っちにしろカブっちにしろ、教師であって一種の聖職者なんだから、大いに童貞でけっこうなんじゃねーの?…とは思うのが正直なところだが。けれども本人らはそれをびみょうには気にしているらしいので、何ら問題でない、とも言えないようだ。
そこらをいつか、追って追求できれば! そうしてさいごにご唱和くださいませ、かわいいボクらの合い言葉は、『Let's! みんなで童貞論!』。

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