2010/04/21

米沢嘉博「戦後ギャグマンガ史」 - ギャグまんがの起源のなぞ

何度も申し上げて申し訳ないが、われわれの主張の1つとして、『“ギャグまんが第1号”と呼べる作品は、赤塚不二夫「おそ松くん」(1962)である』。どうしてそうなのかというと、それはまず、筆者の尊敬する先パイがそう言ってたからなのだが。
まあそれは皆さまの知らないことなので、おいといて。あわせて、世に出ている資料にも、このようにある。

 ――― 米沢嘉博「戦後ギャグマンガ史」(1981), 『はじめに』より ―――
『基本的には、ギャグマンガの始まりを赤塚不二夫あたりにすることにする。それまでのマンガにおいて「ギャグマンガ」という概念はたぶん存在しなかったと思われるからだ(中略)。意識的に「ギャグ」を優先させる方法論が持ち込まれた時に、「ギャグマンガ」は生まれさせられたに違いあるまい』(ちくま文庫版, p.18)

生まれ『させられた』、という言い方に味わうべきものがある。ところで近ごろ、これに並行するような主張を、別のところで見つけた。

 ――― 呉智英『ギャグの未開地を拓く』(1999)より ―――
『現在「ギャグマンガ」の名で総称される作品は、一九五〇年代までは「ユーモアマンガ」とか「ゆかいマンガ」と呼ばれていた。簡単に言えば、落語をそのままコマ割りしたようなマンガで、とぼけた主人公が滑稽な行動をし、最後にオチがある、といったものである。
これが大きく変わったのは、赤塚不二夫の登場からであった。赤塚の「おそ松くん」「天才バカボン」は、それまでのユーモアマンガの概念を打ち破るものであった。旧来のマンガの笑いがオチに向かって収斂されてゆくのに対し、赤塚の笑いは全体の流れとは無関係に冒頭だろうと途中だろうと爆発した』(楳図かずお「まことちゃん」小学館文庫版・第1巻『解説』, p.358。改行は引用者)

つまりそういうことだ、と申してすましたいのだが。ところが、質的な意味での≪ギャグまんが≫の起源はそうだとして、しかしその一方、『“ギャグまんが”ということばがいつからあるのか』を伝えている資料が、いまだ見つからない。
「戦後ギャグマンガ史」の伝えるところによると、「おそ松くん」の誕生と同じ1962年に出た「ぼくらの入門百科・マンガのかきかた」(冒険王編集部・秋田書店)という本に、すでに『ギャグまんがの描き方』が説かれているらしい(p.144)。対向ページのそこからの図版を見ると、当時の代表的な『ギャグマンガの主人公たち』は、「ナマちゃん」(赤塚不二夫)・「ポテトくん」(板井レンタロー)・「わんぱくター坊」(ムロタニ・ツネ象)・「ナガシマくん」(わち・さんぺい)・「ロボット三等兵」(前谷惟光)・「よたろうくん」(山根赤鬼)、等々々。
で、いま名前が出たような作品たちをこんにちのわれわれは、≪ギャグまんが≫以前のもの、と考えたいわけだ。ところがそれらは発表当時、りっぱな『ギャグまんが』の作例だ、と考えられていたらしいのだ。

ちなみに『ナンセンスまんが』ということばの方がよっぽど古いもので、戦前の「ノンキナトウサン」や「フクちゃん」らが、そのように呼ばれていたのだとか(米沢, 前掲書, p.27)。ゆえに、かの「サザエさん」も、そうした『ナンセンスまんが』の流れにそった作品ということになる。
だが現在のわれわれの感じ方だと、≪ナンセンス≫とは、もうちょっとどぎついものになるのではなかろうか。…と、それは余談だが。

ところで「戦後ギャグマンガ史」の論じ方は、するどく狭い意味での≪ギャグまんが≫を定義していく方向には、あまり向かっていない。『笑いを主眼として送り出されてきたものをとりあえずギャグマンガとして扱ってみた』…とは、その書の巻末付録の『戦後ギャグマンガ史年表』へのただし書きだ(p.321)。
そのように同書においては、まず『笑いを主眼とした作品』が『とりあえず』、『ギャグまんが』として扱われている。がしかし、コアな≪ギャグまんが≫の起源が「おそ松くん」なのだ、と言われているように、いちおう読んでおける。そこらをわりとあいまいにしているのが、同書の記述のにくいところだ…と考えながら。

つまり『ギャグまんが』という用語は「おそ松くん」のために生まれたのではないのだが、しかしそのように考えておこう的な≪操作≫が、ここらでなされている気配。そして筆者もその行き方には賛成するのだけど、しかしこの≪操作≫の存在を忘れてはならんように思う。
かつ、われわれがコアな≪ギャグまんが≫(“外傷”的な笑いをクリエートしている作品)を定義しえたからといって、広義の『ギャグまんが』を完全には排除できない、峻別しえない、ということは、以前に申し上げた通り。と、ここまでまったく面白くない議論だったように思うが(涙)、しかしこういうことも認識しておく必要があるかなあ…と、筆者は思い込んだのだった。

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