2010/03/05

黒葉潤一「ファンシー雑技団」 - シャイな少女は、シャイすぎて…

 
参考リンク:Wikipedia「ファンシー雑技団」

Late 1990'sの少年サンデー掲載の4コマ/ショートギャグ(少年サンデーコミックス, 全3巻)。掲載時期が同じ媒体の久米田康治「かってに改蔵」とわりに重なっており、そして内容がだんだんと精神的にやばい方向に流れて…という展開の方向性も重なっている。
さてこれについては、多少まとまった文章をむかし書いているので、何とかそれの転載で、と考たのだが。でもその分量が、少なくもないので再利用しにくかった。そっちはいつか、丸ごとこの近くに転載することにして、この場では作の概略を述べておこう。

さいしょ、宇宙を巡業する未来のサーカス団のチン道中を描く、として始まった今作だが。しかしいつの間にか、サーカス団とそのメンバーらがどこかへ消え失せて(?)、その次にはまず、楽聖ことL.v.ベートーヴェンの事跡を空想的に描く…という方向に転ずる。
いや空想的も何も、単に根も葉もないようなことを描いた…と言ってもよさげだが(?)。しかし≪ギャグまんが≫の単行本として、ベートーヴェンが表紙に描かれているというのは、今作オンリーの空前なるフィーチャーではあろう(第2巻)。ただし今作におけるベートーヴェンは、常に全裸のド変質者なのだがッ!

で、ひとしきりベートーヴェンやショパンらが活躍して、そして退場した後の第3巻の内容は…。ここで困った、どう説明すればいいのだろう? なまじ大好きな作品だけに、書きにくさを感じるところだ。

まあじっさい読み直してみて、やや焦点に乏しいような作品にはなっちゃってるかな…とは感じたのだった。いや≪ギャグまんが≫には、とくべつのテーマ性もストーリー性も要らない、とも一方で思いつつ。単に笑えるかどうかということが、その絶対のテーマ性なんだから。
というところから見ると、この作品のさいごの方がなあ…。シャイな少女がシャイすぎてやたらと人を斬り殺したり、または≪砂漠の犬≫と恐れられた元傭兵(と称する、マヌケな顔のイヌ)が超不良校の教師になって、そしていっきなり何のタメもなく問答無用で、

 『死ねーい!!』

と叫んで機関銃を乱射したり…。
なんて、だんだんとすなおには笑いにくいネタが増えてるような。あれれ、そうやって字に書いてみると、けっこうオカPぃような気もするが…!
そして最晩期には2つのネタが合体し、つごう16人もの罪なき人々を殺したシャイガールが超不良校に収容されてきて、『先手必勝!!』と叫んでいきなり級友を斬り殺せば、≪砂漠の犬≫もまた『全員殺ス!!』と叫んで機関銃を乱射(第3巻, p.184)…と、あまりにワケが分かンなすぎだし! ≪アナーキー≫のきわみでござ~るゥ、デストロイッ!

なお第3巻のカバーのド真ん中で、キリッとした顔つきでセーラー服姿で日本刀を構えているのが、この殺人少女だけど。見た感じ、この子は妖怪退治でもしてんのかな…と想うのが、まんが読者的な見方だろうに(“セーラー服+日本刀”は、近年けっこうよく見られる図象)。それがまさか兇悪なる殺人鬼だとは、逆にアッパレだと言ってよいのやら? むしろありきたり気味なそれを、裏返したところに≪何か≫が描かれているのだろうか?
ところで今作は、丸っきり意味不明だとも言い斬りがたいところがあって。ニンゲン誰しも多少は他人がコワい、されば即、『先手必勝!!』として『殺ス!!』…という挙動に出るのも、実はそんなにはイミ不明でない。
イミはあっても、単にそんなことを実行しちゃ~ダメだというだけで…ッ!? と、かように、(多少でも)笑えるギャグには、必ず何らかの≪意味=無意味の意味≫があるのだ。

とまあ、いろいろ申したけど、やはり自分はこの作品をスキだし、無視しえぬ創作だ、と見直してみて思ったのだった。なぜって1つ言えば、作家が構築している世界の破綻のせとぎわから何か、≪真理≫めいたものが、かろうじて回帰しているから…とでも言っておくところか。
いや、ぜんぜんことばが足りない。今作については、いずれまたもう少し。

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