関連記事:やきうどん「主将!! 地院家若美」 - 肉欲と正義とのはざま、その決定不可能性!
やきうどん「主将!! 地院家若美」の記事、その2。まずわれわれは関連記事で、耽美をきわめた異端なヒーロー若美、と若鳥くん、その2人の関係性を見た。
で、その若鳥くんに対して若美はどうなのかというと。…追って見ていれば、実はそんなに本気じゃない(!)、という感じもするのだった。あくまでもおたわむれとしてのお気に入りで、実は大してさし迫った感情がない、という気もするのだった。
そうすると、どこの誰に対して若美は本気(マジ)なのか? そもそもそんな対象があるのかないのか…ということが、多少は気になってくるのでは? なお、この「主将!! 地院家若美」の記事に関し、小見出しの番号は通しにしている。
4. 地院家若美 -と- 桃戸美柑
さきに見た第1話に続き、この作品に、≪桃戸美柑(ももと・みかん)≫という女の子が登場してくる。ひじょうに気がやさしくて内気な1年生で、背が低いわりに胸がやたら大きい。
『攻撃誘発性』という何かの用語があるが、それを絵に描いたような少女なのだ。それでいつもいじめられがちで、いまは特に、通学電車でチカンによく遭うことで苦しんでいる。
そして第3話、たまたま同じ通学電車に乗り合わせた、美柑と若美。そしてまたもチカンの被害に遭う美柑、そのメガネリーマンのチカンヤローを、われらのヒーローがあざやかに摘発! そしてその場でおしおき(&お愉しみ)として、きっつ~く凌辱してしまう!(第1巻, p,59)
【リーマン】 (半裸にむかれて泣きながらホームへ、)覚えてろよ――!!
【若美】 (さわやかに勝ち名のり、)大内裏高校 柔道部主将 地院家若美
(クリックリッと、スナップのキレを誇示し、)いつでも お相手するわよ?
【車内の男ども】 ゾォ~~
なお、第1話のプロローグもまた、若鳥くんが電車内でチカンの濡れ衣を着せられるお話だった。なぜか今作には、この話題がみょうによく出てくる。
が、それはともかく、美柑がはればれとしてお礼を言うと、若美はこう出るのだった。
【若美】 (まったく関心もない眼つきで、)別にあなたを 助けたワケじゃ ないわ
痴漢になら 痴漢をしても 訴えられないと 思っただけよ!
そしてその駅で、プイッと電車を降りてしまう。この2人は同じ学校に向かっているはずなので(朝の事件と解釈し)、それは意味のある行動かと受けとっておく。そして車内に残った美柑は、あこがれの視線で、この美しく強く気高いヒーローの背中を見つめ続けるのだった。
【美柑】 (モノローグで、)助けてくれて全く 恩にもきせない‥
地院家先輩‥‥ 素敵すぎ‥‥
そして美柑に背中を向けたヒーローの表情は、なぜかほのかに寂しそうなのだった。これがまた≪意味≫のある表現なのかもしれないが、いまはそれをおいて。
かつ。ここらで美柑は、何かのかん違いを、していると言えるのだろうか? どうであれ彼女は、他の誰でもない地院家若美に、人においてありうる限りの正義と力の輝き、それを見たのだ。
5. 空中に書いたラヴレター
追っておそらく数日後、美柑は何かを決意して、柔道部の門をたたく。ところが…。
ところがというか、まったく予想される通り、若美の態度はけんもほろろ! 何も聞かない前から『不純よ!! 女は存在自体が 不純なのよ!』と一喝する若美と、立ちすくむ美柑…その背景に、なぜか不動明王と餓鬼の絵が浮かぶ(p.63)。
ここいらひじょうに面白いのだが、長くなりそうなので超略述。『強くなりたいんです!! 自分を守れる 女になりたいんです!』等々と言い、美柑があんまり必死なので、若美は何か考えた上、条件付きで、初の女子部員として美柑を受けいれる。
その条件とは、『武道として、何をされてもセクハラとか訴えません。訴えた場合、また中途半端で退部した場合、100万円を柔道部に寄付します』とかいう契約書に、血判を捺させるというもの。あわせて美柑と乱取りしたいような部員は、全員これに血判を捺せという。
で、美柑はもとより。彼女のかわいさを見て等々で、ついつい男子らも全員がそれに応じてしまったので…。
それから柔道部では、来る日も来る日も! 美柑がひたすら独りで受け身を練習している横で若美が、柔道にかこつけ、例の契約をたてにして、男子部員らをセクシャルに責めて攻めて責めまくるのだった。
第1話でもそうとうなことをしていた気がしたが、あんなのはぜんぜん遠慮してたのだったらしい! 快感と苦痛と絶望のきわまりに、あわれな部員は『お母さぁ――ん!!』と叫ぶ。処刑の順番を待っている部員らまでも、その散華のありさまを眺めながら逝きかける(p.70)。
そこへ空気の読めない美柑が(…そんな空気を読めってのもあまりだが)、『そろそろ技を教わりたい』のように言い出すと、いいところをじゃまされた若美の怒るまいことか。
受け身の重要さを言い出し、『空中で3回まわって受け身』という課題を美柑に出して、技はそれからと約束。『男に二言は ないわ! 二股はあっても』と告げて、若美はお愉しみに戻る。はたで聞いていた男子部員らは、『そんなの俺らにも できね――!!』と、心で叫ぶ。
ところがそれから1ヵ月後、美柑はその課題をクリアしてしまう。体育館の跳び箱を使って跳ね上がり3回転、板の間で『ビタァ』と受け身をとり、痛いのに何とか立ち上がる。のちにもいろいろ見ることになろうが、この子が意外と、尋常でない素質を秘めていたようなのだった(p.73)。
【若美】 (さいしょモノローグで、)女のクセに やるわね‥‥
いいわ 男に 一物はあっても 二言はないわ
最高の技を 教えてあげる‥‥!!
さりげなく進行しているようだが、実は全編にも波及するような重大事が、ここらで生じているのだった。まさしく『男に 一物はあっても 二言はない』であって、いくら若美でもそんなにいいかげんなことばかり言ってはいないと、われわれは追い追い知らされる。
さてそれから美柑は道場で、両手に鉄アレイを持った上、両手首にもたいへん重そうなウェイト、という特訓体制に入る。これから毎日その体勢で、腕を伸ばしたまま片手ずつ、空中にひらがな50音を書き取りせい、と若美は命じるのだった。
『それが、“技”!?』…と、美柑はあまり得心がいかないが、しかし若美は言うことだけ言うと、男子らとの練習に行ってしまう。そこで美柑はしょうがなく、『あ』から空中に書き取りを始める。
やがてそれが、『たの段』まで達すると、続いて美柑は空中に、思わず『ち い‥‥ ん‥け‥‥』と、彼女の想い人の名前を書き始めるのだった。
【美柑】 (空中に書いている文字、)せ・ん・ぱ・い だ・い・す・き
ちいんけせんぱい だいすき‥‥ 地院家 先輩‥‥!!
そうして汗をかき呼吸を荒くし、涙まで浮かべながら、熱い想いで特訓にとりくむ美柑。その一方、道場の向こう側で若美は、彼もまた『ハアハア』と呼吸を荒くしながら、かわいそうな男子部員を寝技で攻めて、責めに責めまくっているのだった。
これがまさしく、爆笑と号泣が同時に顔面から飛び出るような! ギャグまんが史上にも残るであろう場面だ。
一心に若美を慕い、彼のように強くなりたいと、超ハードな特訓にもついていく美柑。そのガッツと純粋さに撃たれ、女ぎらいをおして、実は超スペシャルな指導をしている若美。確かに何かが通じあっているのに、それと同時に彼たちは死ぬほどすれ違い、そしてぞんぶんな『出遭い(そこね)』を演じるのだ。
6. そこにまたあの≪決定不可能性≫が
で、それから2ヵ月後。鉄アレイの重さにもすっかり慣れてしまった美柑が、またしびれをきらしたので、ついに若美は乱取りげいこを彼女に許す。
ところが、指名されたそのお相手は、久々に活躍の若鳥くんだった。美柑は目当ての若美にすかされた上、この間に鍛え上げた若鳥くんのマッスルバディに恐れをなす。しかも彼は、いろいろに何かがたまっていてやる気マンマン…!
ところが美柑は、『いただきマンモス――♥♥♥』と叫んでかかってきた若鳥くんを、ワンタッチで軽~く投げてしまう。若美以外の全員が、そこであっけにとられる。
どういうことかって、若美がタネ明かし。美柑独りが課せられた奇妙な特訓は、古流武術が重視した『伸筋力』を鍛えるもので。とにかく秘伝的な、すごい技を可能とするものなのだった。
【美柑】 そっそんな 凄い技を‥‥ 私だけに‥‥‥!!
(感動のあまり、若美に抱きつこうとして、)地院家 先輩――!!
【若美】 (巴投げで美柑をぶっ飛ばし、)キモいわん
【美柑】 ああああ――!!
で、すっかり暗くなった、その日の帰り道。公園を通りぬけようとした美柑は、エピソードのさいしょに出てきたメガネのチカンヤローに急襲されてしまう。『伸筋力』の威力は組みつかれる前だけ、と若美から注意されていたのに、いきなり背後からクラッチされて。
危機一髪! がしかし美柑は、そこでとっさの巴投げから、上四方固めに移行! ただし若美スタイルなので、はしたなくもお互いの股間と顔面を合わせる形で。
【美柑】 (独りの特訓中に道場で、)目に焼きつくほど 凝視し続けた
地院家先輩の得意技 自然に できた!!
ところが『一本』がかからないので、数え続けて300秒以上、美柑はチカンを押さえ込んだまま。そこへ若美が通りかかって、敵がもう窒息していることを教える。『息苦しくも 馨(かぐわ)しいお花畑』と彼が呼んだ地点で、チカンヤローは昇天してしまっていた。
そして若美は、『おめでとう あなたも立派な 武術家ね‥‥』と、美柑を讃える。ここら、若鳥くんのエピソードを反復している感じも大いにありつつ。
がしかし。ときめきながら、『このタイミングでなら、ほんとうの気持ちが言える!』的に決意して、『私‥‥ 先輩のことが‥‥』とまで美柑が言いかけたら、もう若美がいない(!)。
若美は失神したチカンヤローを抱き上げて、またも凌辱…いや≪愛≫というものを彼にみっちり教えてあげようと、公園の茂みの深奥へと向かっていたのだった。ここで第3話『危険な果実』、完。
さてこのお話、その局面らがひじょうに感動的なのは分かったとして。しかしいったい≪何≫を表しているものなのだろうか?
見ていると美柑は、若美が男性らと何をしていようとも、あまりどうとも思っていないらしい。つまり若美本人と一般が『性的(変態性欲的)』と考え感じるような行為らを見て、彼女はそれを性的とは考えない。
そういえば、追ってこの作品には、BL・やおい・≪腐女子≫といった話題がドカンと出てくる。そのような目で若美らを見て女子たちが悦ぶのだが、しかし美柑は、彼女らの輪の中には入らない。
ちょっと変わり者、やんちゃな少年らしさを残す、彼をそのくらいに『考えたい』。『若美はゲイである』という認識が、彼女においては抑圧されているらしいのだった。それがはっきり≪抑圧≫だと分かるのも、かなり後のことだが。
だから美柑から見ての若美には、前に見た≪決定不可能性≫などというモメントが、まったく存在しない。若鳥くんは若美に両義性を見て、そして自らも両義的に接するけれど、美柑にはそれがない。
若美が美柑を、また違う意味でお気に入りとし、他には教えない秘技らを教え、誰をもさしおいて≪一番弟子≫の称号を許すのは、それでかも知れない。続く第4話のサブタイトルが、その『一番弟子』で(p.91)。
美柑と若鳥くん、その対照的な一対のお気に入りを、若美はそれぞれにキープし、そしてそれぞれに鍛える。まったくもって、同じようには接しない。
そうして若美と美柑が、後者の望むような関係にならないのは、ただ単に若美がゲイであるからなのか、それとも彼なりに美柑のためを思ってなのか? 追って述べられるはずだが、若美は武術の達人すぎて、ある筋から生命を狙われているのだ。
…そこらにまたあの≪決定不可能性≫がちらつくのだが、しかし美柑の知ったことではないのだった。すばらしい単細胞さで、彼女は若美についていくのだ。『ウザ、キモ、あんまりよってこないで!』のようにさえも言われながら、超へいきで…!(続く)
すごい面白いです。
返信削除これがこんなに深い作品だったとは。
確かに、鉄アレイのシーンは感動と笑いが同時に襲ってくる
屈指の名シーンだと思います。
解説の続きが早く読みたい!
匿名さん、ありがとうございます! この「地院家若美」にあるような、『爆笑しながら同時に泣いている』というのは、何か20世紀のギャグマンガにはなかった、新しい境地のような気がしているのです。がんばって、続きを書き上げたいと思います!
返信削除初めて拝見しましたが、この作品をこんな視点から分析するとは!目から鱗です。「両義性」というワードに非常に感じるところがありました。
返信削除続きを是非お願いします。