参考リンク:Wikipedia「ロボこみ」
今作こと「ロボこみ」は、筆者が主張する週刊少年チャンピオンの『“萌え”おちょくり路線のギャグまんが』、その中でもっともきわだった創作。それ的なものとして、2004年から1年半ほど掲載されたショート作品。単行本は、少年チャンピオン・コミックス全4巻。
補足すると、近年の週刊少年チャンピオンのギャグまんがには、『“萌え”おちょくり路線』という系列があるかのように、筆者は思い込んでいるのだ。それは2000年の伯林「しゅーまっは」あたりを起源とし、そして現在の安部真弘「侵略!イカ娘」にいたるもの。
1. まじめで明るくてみんなの人気者
それはどういうのかというと、いわゆる『萌え』っぽいキャラクターをいったん出しておきながら、追って不条理やグロテスクの出現で、ショッキングに落とすような作風。あわせて倉島圭「24のひとみ」や桜井のりお「みつどもえ」にも、びみょうにはそうした志向がある感じ。
だがしかし「しゅーまっは」や「ロボこみ」に比べたら、現在の「イカ娘」の不条理さとグロ味は、少々微温的かも? よってこの路線がチャンピオン誌上で、今後ますます発展しそうな気がしてはいないが。
で、この「ロボこみ」が、どういうお話だったかというと。まずそのヒーロー≪石上くん≫は、やたら髪がハネている以外、きわめてふつうの少年(かのように見える)。その彼が転入先の高校で、ヒロインの≪鈴木ロボ子≫と出遭う。なぜかその女子が、みょうに彼へとなついてくる。
ではそのロボ子が、どういう女の子かというと。まず性格はまじめで明るくてみんなの人気者、かわいいと評判で成績は優秀、ちょっとドジなところもあり、男子らからはモテまくり。それは、ひじょうにけっこうなのだが…。
けれども石上くんにはそのロボ子が、ひじょうに珍妙な人型ロボットにしか見えないのだった(!)。ごく短い胴体からフレキシブルチューブの細い四肢が生えていて、そして手足の先がひじょうにメカメカしい。その手の指は、4本ずつだし。
そしてその顔はネジ頭もむき出しの作り物で、頭頂部からV字型のアンテナが『アホ毛』風に突っ立っており。さらにおさげ髪のありそうなところから、なつかしいSCSIか何かのズ太いPC用ケーブルが、プラグ丸出しでぶら下がっている…と!
また近づくとモーターか何かの作動音がするし、かつ歩く音が『どみゅん どみゅん』、と重い。のちに知られることだが、その体重もまたひじょうに重い。そして動物たちは、基本的には彼女を恐れて逃げてしまう。
…ところが! ロボ子がそのように見えている人物は、何と石上くんだけのようなのだった。一般の生徒もその他の人々も、ロボ子を単にふつうのかわいい女の子、と見ているのだ。特に石上くんがショックを受けたのは、自分の妹の≪邑子(ゆうこ)≫にさえ、ロボ子がふつうに見えていたことだ(第1巻, p.24)。
2. 害意もなくしてファイアーボム!
しかもそのロボ子が、どういう設計思想なのか、全身これ武装のかたまりでもあり、きわめて危険なしろものなのだった。『7つの威力』を持っている、というふれこみのロボット少年がむかしいたけれど、しかしロボ子の有する火力はそれどころでない。
その第1話のさいご、まったくふつうな感じで、肩を並べて下校していたロボ子と石上くん。そこへ向かって車が暴走してきたのを見てロボ子は、『危なァァ――いっっ!!』と叫ぶや、セーラー服のエリの部分を『バクン!』と開いて、そこから雨あられとミサイルを斉射! 暴走車をあっさり大破させて、彼たちの難を逃れる。
で、『ビックリしたァ…』と言ったかと思えば、ロボ子は転校生の石上くんに、『学校は もう慣れた?』と、ふつうの話をへいきで続けてくるのだった(!)。いつもそうなのだがロボ子は、自分がミサイルや光線などを撃ちまくった、という自覚ができないらしい。
だがしかし『ビックリした』のはよっぽど石上くんの方で、彼は青ざめながらなま返事を返すばかり(p.12)。その内心では、こうつぶやく。
【石上】 (モノローグで、)「お前にだけは 慣れねェよ!!」
そして。これらを見て思い出すのだが、『萌え』なんてことばが、いまだ目新しかったMid 1990's。アダルトゲーム「To Heart」のヒロインの1人、ロボット少女の≪マルチ≫が最初期の『萌えキャラ』として、かなりな人気を博したものだった(*)。
そしてロボ子のあり方は、ちょっとそのマルチを裏返したもののような気がするのだった。いやそっちのお話をよくは知らないので、あまり確信はもてないが。
たぶん「To Heart」のお話で人々は、マルチがロボットだということを知っている。マルチは耳がへんである以外、ほとんど見た目が人間と変わらない。そしてたぶん彼女は、人々にもヒーローにも大した害悪はなさない。むしろイメージとしては、被害者であり犠牲者であることに徹している感じ。
一方の今作「ロボこみ」のロボ子は、ふしぎに人々からロボットだと思われていない。その見た目は、ある種かわいいと言えなくも?…だがともかく、ひじょうにメカっぽい。そして彼女は武装のかたまりで、害意もないままに破壊活動をやりまくり! やがてお話が進むと、その主なる被害者は、ヒーローの石上くんになる(!)。
通じているのは悪意のなさ、≪無垢≫という特徴と、あと例の『ドジっ子』ですぐテンパる、というところか。そして両作品のセーラー服の恥ずかしい赤さが、みょうに共通するものを筆者に思わせるのだった。ところが今作は、「To Heart」が普及させたような『萌え』という感覚を、明らかにおちょくって撥無しているのだけど!
そして「ロボこみ」作中で石上くんは、彼が『理不尽な存在』と呼ぶロボ子によって、ふり廻されまくるのだった。追ってさらにこの作品には、幽霊や化け猫や宇宙人といった人外の少女、さらにオカルト狂や特殊コマンドや自称エスパーといったエキセントリックすぎ少女らも登場し、ますますギャルゲーっぽさを深めるのだが…。
しかし何者であれ彼女らはいちように、何だかんだで石上くんを、超ひどい目に遭わせるのだ。その端的な結果は、われらがヒーローの病院送り(!)。めんどうだから数えないけれど今作には、そして石上くんが入院へ、というかわいそうなオチがやたらに多し。ここではわれわれの申す≪外傷≫的なイベントらが、そのまんま肉体の外傷に帰結するのだ!
3. 不在の父性の≪ファルス≫たる少女
そういうわけだが、いまはかんたんに、ロボ子にしぼって考察しよう。この作中で、ロボ子に関する認識の違いは、なぜに生じているのだろうか?
むかーし考えたことなんだが、それについては3通りの解釈が可能かと。
I. 『SF的解釈』 ロボ子のボディから洗脳電波が出ていて、それで人々は、彼女がロボットであることに気がつかない。それが石上くんに効かないのは、特異体質か何かのせい。ロボ子が動物らに強く嫌われていることは、この説を補強する感じ。
II. 『叙述のトリック?』 実は、語り手の石上くんこそがおかしい。ふつうの少女を、なぜかロボットだと思い込んでいる。『精神病』なのかも。
III. 『象徴的・心理的解釈』 IIの変形。石上くんからロボ子がおかしく見えていることは、思春期の少年にとって、異性が異物的にも見えることの象徴的な表現。同じくロボ子の危険さは、『異性のふれがたさ』の誇張されたもの。
…諸姉兄は、どの説がお気に召されるでしょう? 自分的には、わりといつも申し上げるような『象徴的解釈』をとりたいわけだが。けれどもけっきょく、『それはこう』と断言はできないもののような気がするのだった。
ところで筆者が考えるのは、ロボ子が作り物だとすれば、必ず誰かがそれを作ったのだ、ということ。それがどういうマッド・サイエンティストのしわざなのかを、今作は明らかにしていない。いやそれが明らかでないからこそ、われらのヒロインが『理不尽な存在』なのだが。
そこで考えると、『狂った父性』、そして不在の父性の≪ファルス≫として、この珍妙にして危険きわまるロボット少女が生まれ、そこらを徘徊しているような気もする。だが一方、危険にしたって善意の無垢なる存在として、その父性はロボ子を生み出したのだ、とも思える。
(≪ファルス≫とは手短には説明しがたい概念だが、とりあえず『勃起したペニスを象徴する記号』。そして、娘は父の『想像的ファルス』でありうる)
そのように、≪ギャグ≫に関することの通例として、ロボ子という存在はあくまでも『両義的』であることをやめない。そしてそれに対する石上くんの態度もまた、両義的である以外にないのだった。
かつまた≪ロボット≫に関するお話らは、けっきょくのところ『人間とは何か?』という問いかけに帰するものなのだ…ということも、憶えておく必要はある。≪無垢なる少女≫に近いものが、必ずしも害をしないということはない。それはマシーンでありプログラムされたものであり、それ自身の意思に関係なく、何らかの作動をする場合もある。ロボ子がしばしば、それで大暴走してくれるように。
そうしてロボ子のあんまりなヤバさ、その表している真実さは、『萌え』などと称される独りがってな想像ワールド、そのいい気な感覚を、撥無し続けてやまないのだ。もちろん人には想像の自由もありながら、しかし今作「ロボこみ」らこそ、そんな想像ごときを突き抜けるリアリズムの創作なのだ。
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