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おおひなたごう先生がプリンセスに掲載された、その初の少女向け作品「空飛べ!プッチ」(2005-06)。単行本は秋田書店より、全1巻。
これが近くエンターブレインから『完全版』として再刊されるそうなので(10/25発)、この機会に秋田版を読みなおしてみた。
それがどういうお話かって、アマゾンに出ていた秋田版の宣伝文によると。
奇才が描く初の少女まんが!!
雲の上の国・ネザーランドのプッチは飛べないウサギ。生き別れた母を探すために今日も飛ぶ訓練をしていますが…。
次に同じく、近日発売のエンターブレイン『完全版』の宣伝文。
安野モヨコ絶賛!! おおひなたごう唯一の少女漫画!!
「ママに会いたい! 空を飛びたい!」
雲の上にある、空飛ぶウサギの国・ネザーランド。飛べないウサギのプッチは行方不明のママを探すため、健気に練習に励むけどなかなか飛ぶことができません。かわいそうなプッチは今日もひとり、つらい現実から目を背けるため、エアクッションをプチプチプチプチプチプチプチ……。
ギャグ漫画家おおひなたごうが初めて少女漫画誌に連載した隠れた名作が、大量の未収録作品と感動のフィナーレを収録した完全版として、ここに待望の新生!
と、これでどういうお話か、よくわかったとして(?)。こんど読み返して、ひとつ筆者の印象に残ったことを書いておきたい。
「空飛べ!プッチ」・第3話、『ママの呼ぶ声』の巻(秋田書店版, p.23)。冒頭、その行方不明の母が、プッチの夢の中で、彼女の子どもを探している。
『どこだい? プッチ!』と呼びかけ、彼女は闇の中で、遠くに視線を送る。そこでプッチは、『ぼくは ここだよ!』と呼びかけ返すのだが、その声は母には届かない。
やがて彼女は、『プッチ?』と呼びながら、自分の服のポッケの中や、マッチ箱の中などをチェキし始める(!)。プッチはショックをこうむりながら、『そんなところに いないよ!』とツッコむ。が、その声は母には聞こえていない。
それからだんだん背景が具体的になってきて、彼女は壁の額ぶちの裏側を調べたり、さらにはテレビ台の上のほこりをぬぐったりしながら、『プッチ?』と呼びかける。その次には、本を開いてその中に『プッチ?』と呼びかけたかと思ったら、そのまま本を読みふけってしまう(!)。
さらに彼女は、出かけ先のレストランで『ご注文は?』と聞かれて、『プッチ』と答える。その次に、怪しい館の玄関口で『合言葉を 言え』と命じられ、『プッチ』と答える。ここまでいちいちショックを受けてきた本人は、そこで『やりたい放題!?』、と叫ぶ。
するとふたたび背景が暗転し、闇の中で母は、『プッチ! プッチ!』と、彼女の子どもを呼びつづける。そしてプッチは『ママー!』と現実で叫び、目ざめて『わ~ん』と泣き出す。そしてその激しい泣き声が、彼の寄宿先の家族らを起こしてしまう。
それに続いてのシーンでは、プッチの両親が生き別れになったてんまつが紹介される。これがイカにもごう先生のお作らしい人を喰ったもので、そこは実作でご覧になりたい。
で、そうしてプッチは、
『毎晩毎晩… (彼の母が)夢でボクを呼ぶんだ…
だからいつか 飛べるようになって… 探しに行って あげるんだ!』
とまで言って、また『うびゃ~ん』と泣き出してしまう。
それからすぐ続いて、結びの1ページ。またもプッチの夢の中で、母がわが子を探している。『プッチ? プッチ?』と呼びながら、歯科医としてドリルを手にして人の口の中を覗き込んだり、また万華鏡らしきものを『クルクル』と、廻しながら覗き込んだり。
しまいに彼女は、スーツ姿にドレッドヘアという、カッコいいウサギの青年をつかまえて、『プッチ?』と呼びかける。それから2人は彼の車でどこかへと走り出し、そしてミラーボールの廻るディスコでいっしょに踊る。
これにショックを受けて、『(自分の母が、)ナンパ されちゃっ たよ!』と、プッチは叫ぶ。そして『どひゃ~ん』とけたたましく泣き出すので、またまた彼の同居人たちはたまらない(第3話・終わり)。
…さて、このお話は、いったい≪何≫なのだろうか? 『これはこうなのだ!』と、はっきり分かっている気はしないけれど、ひとつ申し上げれば。
まず、プッチの母親が、『あくまでもプッチ自身の夢の中で』、自分の息子を探している。そして母が、見当違いを通り越した探し方をしていることが≪ギャグ≫になっているけれど…。
その描かれたことを、逆に考えると。『ママはプッチを探している』が裏返って、『“ママが探しているもの”は、(そのつどに)プッチである』となっている。
さらに。さいしょからチラチラと出ている『覗き込み』という探し方に加えて、さいごの段では『回転』や『突き出たもの』というモチーフらがググッと浮上する。これらが何となくも性的なニュアンスをかもし出しているところで、しまいにプッチの母は『ナンパされ』てしまう。
そしてディスコの場面で、初めて彼女はほほえんでいる表情を示して、それを青年に向ける。それまでは、ずっと憂い顔だったものが。
そうすると、その2ショットで、プッチの母親の強調された乳房の大きさが、『母性』の表現とは、また別のものにも見えてくる。そしてその先の展開を見ることに耐ええずして、プッチは泣きながら目ざめてしまう。
彼の夢の中で、母は必死に≪プッチ≫を探している。そのことは確かだ。だがしかし、彼女が求めてやまない『プッチと呼ばれる何か』が、はたして『自分』そのものであるのかどうか?
…という疑問があまりにも≪外傷≫的すぎるので、プッチは泣く。激しく泣いて、泣いてやまないのだ。
『“母の欲望”、その対象とは何か?』
考えたくもないような話になってきて申しわけないが、だが例によって、『それは≪ファルス≫である』、という見方がある(…ファルスとは、勃起したペニスを象徴する記号)。
で、まったく言いたくもないことだが、超はしょって述べると。まず女性らは幼くして、自分が現実的に≪去勢≫をこうむっていると知って傷つく(去勢コンプレックスの発生)。そして長じては、性交という行為によって、ファルスの再所有(取り込み)をはかる。さらに続いては、出産によって生まれたものを、彼女のファルスと見なす。
『子どもは、母の≪ファルス≫である』(特に、男児について)
そして、ファルスとはあくまでも記号なので(根源的で特権的な記号ではあるが)、記号であるものの性質として、いくらでも代理の代理の代理が可能。そういうところからすると≪プッチ≫とは、母が自分用の≪ファルス≫に対して与えた名前、とも考えうる。
これらのことがあまりにも≪外傷≫的な認識なので、プッチは泣くのだ。ところでわれわれの知る正しいテーゼとして、『夢は願望充足で(も)ある』。だからこそ、そうとは言っても彼の母は、がんばって≪プッチ≫を探しているには変わりがない…という夢の内容になっているのであり。
というわけで、申しわけなくも、まったくウツっぽい話になってしまったが。にしてもわれらのおおひなたごう先生が、『根も葉もないこと』として、彼のおもしろギャグを飛ばしておられるのではない、とまでは立証できた感じ。
それらが人間らの≪外傷≫にかすっているからこそ、それらは≪ギャグ≫なのだ。そうしてプッチらの運命も気になるところだが、それはいつかまた別の記事で見よう。
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