2010/10/31

河田雄志+行徒「学園革命伝ミツルギ」 - そしてペロ君は天国に行った(はず)

河田雄志+行徒「学園革命伝ミツルギ」第1巻 
参考リンク:Wikipedia「学園革命伝ミツルギ」, ヤングガンガン「学園革命伝ミツルギ なかよし」

「学園革命伝ミツルギ」は、2005年からコミックラッシュ掲載の、ちょっとお耽美ですごく不条理な学園ギャグ。単行本は、CRコミックス・全10巻。追って今2010年10月から、「学園革命伝ミツルギ なかよし」と改題され、ヤングガンガンに掲載中。

1. その無意味な華麗さにムカつく の巻

さてこちらの原作者、河田雄志先生について自分は、月刊少年チャンピオンのギャグ作品「島国ロマンス万力高校 吉原炎上!!暁の甲子園」(2004, 少年チャンピオン・コミックス全1巻)の作者として認識していた。それがいつのまにか原作に転じていて、しかもまったく目立たない媒体でひそやかにご活躍されていたので、かなりびっくり。
ちなみにここでご紹介しておくと、その題名の長い「島国ロマンス万力高校」は、離島の分校の野球部、『弱小』という以前に成り立っていないよせ集めのヤキュー部が、超おしかけの割り込みで甲子園大会に出場しやがるお話。で、試合前の円陣で、『万高(まんこう)! オー!』と、びみょうに危険なことを叫ぶという…。その出オチギャグで押しきったような、かなりあっぱれなお作品。

なお、少女まんがとギャグまんがに関しては、原作つきでいい作品が、歴史的にひじょうに少ない。少女まんがでその名作なんて、水木杏子原作のいがらしゆみこ「キャンディ・キャンディ」(1975)くらいしかないわけで。
一方われらのギャグまんがでは、にざかなの『にざ』でありタマちく.の『タマ』である一條マサヒデ先生、ほぼ彼1人だけが、ギャグまんがの原作者と言える人材だった。そしてこのたび…というほど最近のことでもないが、こちらの河田雄志先生が、その映えある第2号になった感じ。いや、そんな映えあるってほどかどうか知らないけど…。

という、のっけからのがっかり感が、何となくお題の「ミツルギ」っぽくていい感じかも? このお作品、ずいぶん前からご紹介したかったんだけど、しかし自分的な切り口が見えてこなくて、ずっと後廻しにしていたもので。
そこでこのたび、これを書くためにさいしょの2巻までを読み返してみたが。…するとひじょうに笑えてハッピーではあったが、けれどもやっぱり、『これはこう』ということばが出てきにくい。
まあともかくも、作の概要を説明しておくと。

――― 「学園革命伝ミツルギ」第2回, 冒頭のナレーション ―――
『この物語は少子化に伴った 相次ぐ学校閉鎖に 立ち向かい 波亜怒雲(パードゥン)高校を 生徒あふれる学校に するために奮闘する 生徒会による 愛と涙と友情の 青春巨篇である』(第1巻, p.15)

そんな重大事を、校長が生徒に依頼するのもどうかと思うが。しかもその生徒会が、まったくとんでもない人材の集まりだった…。と、そこでギャグになっているわけだ。

その生徒会メンバーを、かんたんにだけ説明しておくと。まずは、題名にも出ている超ナルシストのヒーローで会長≪美剣散々(みつるぎ・ちるちる≫。次に、なぜかその御剣に心酔しきっている、書記の超お嬢さま≪姫宮京(ひめみや・みやこ)≫。
続いてはメガネの秀才だが、超痛々しいむっつりスケベの副会長≪中二階堂三一(なかにかいどう・さぶいち)≫。そして唯一の常人で、ツッコミとヤラレ役と会計を兼務する≪緑川青羽(みどりかわ・あおば)≫。さいごに追ってスカウトされた、会計監査のオカルト少女≪妻先(つまさき)ドリル≫。オカルトを研究しているのではなくて、この女の子はその存在自体がオカルト(!)。

という、こいつらの名前が無意味に華麗なので、書いててムカっ腹にきた。そしてこいつらがそれぞれ、ぱっと見た目は見苦しくないのだが。…いや特にさいしょの2人なんて、まぶしいばかりの美貌だが。
しかしその人格が、とても残念な人ばかり! そしてそのとばっちりで、ふつうの少年として出てきた青羽くんまでが、かなり残念な子へと堕ちていくのがゆかい!

ではありながら、これが一種のユートピアの描出でもあるわけだ。どうせまともな人なんてめったにいないなら、せめて見た目がよければ…という、≪美≫を愛してやまぬわれわれの願い。それが実現されちゃっている世界でも、これはあるわけだ。

2. 無意味にそそり立つしろものらがムカつく の巻

で、残念な人のくせして、御剣くんがむやみとわれわれ一般大衆を見下しているのが、もっとムカっ腹にくる。あわせて京がナチュラルに超ブルジョワ思考をごひろうしやがり、三一くんがムッツリを通り越してドスケベすぎるにも腹が立つ。
とはいえ、『ムカつく!』ばかりを言ってても何なので、ちょっとお話でも見てみると。

――― 「学園革命伝ミツルギ」, 第3回『抗う4人』より ―――
【京】 (学園の新たなるウリを、)ペット可にしては いかがでしょう?
【御剣】 それはいい! そうしよう!!
(翌日、青羽は愛犬ペロ君、京はライオン、御剣はユニコーン、三一はサソリと毒グモを学校に連れてくる。そしてさいごのヤツがカゴから逃げ出し、誰か生徒を刺し殺す)
【御剣】 (黒板に『毒性を持つペット禁止』と書き、)では こういう ことで
【青羽】 (ツッコミ!…等を省略、)疲れるなー この人たち…んん
(ふりむくと、ライオンが犬を捕食中、)ペーロォーッ!!!

『抗う4人』(第1巻, p.27)というサブタイトルは、生徒会の4ヒキが、少子化による学園存亡の危機にあらがう、という意味のはずだが。しかしおおむね、毎回がこんなようす。

で、このシリーズ。毎回とびらページのさいしょの1コマに、さきほど見たまじめくさったナレーションが、ちょっとずつフレーズを変えながら、必ず再掲されている。
その背景が、さいしょの2回はそそり立つ学園の校舎であったものが、このイベントの後から、だんだんと変わっている。異彩を放つというか、異臭を放っているというか。まず第4回のそれが、アフリカのサバンナで草をはむインパラの絵であることは、第3回のライオンの大暴れを引きずっている感じで。
で、その次の第5回は、哀れなペロ君のささやかなお墓の図。第6回は、きれいなお花の球根のような部位が、化け物になっている絵。

続いて第7回・新キャラクターのドリルちゃん(これは流れ外と見る)。さらに第8回・カメムシ、第9回・アイヌ的な木彫り彫刻、第10回・産卵中のキウィ、第11回・木のブロックから生えているキノコ、第12回・ふた股大根。
ここから第2巻の作例で、第13回・ふた股大根のヴァリエーション。第14回・お話の舞台の北海道の地図(流れ外)、第15回・クリスマス風に飾りつけられた盆栽、第16回・『ほめ殺し』と書かれたお習字(by 御剣)、第17回・正露丸のビン、そして第18回・天使の輪をかぶって再登場のペロ君。

そろそろイヤになってきたかとみて、ご紹介もこのくらいにするが。どういうスキをついての所業なのか、逆にいまいち不自然さが乏しい2件の『流れ外』を別として、われわれが言うところの≪外傷≫的なシニフィアンらがずらずら~っと、ごあいさつのコーナーに誇示されているのだった(…シニフィアンとは、みょうに意味ありげな記号)。
さらにもう少しご紹介しちゃうと、第19回・人相のキモいお雛さま、第20回・満開の桜の根元から這い出してくるゾンビ、第21回・カラをむかれている最中のエビ、第22回・長~いフンをぶら下げて泳いでいる金魚。『お雛さま』と『桜』は季節にちなんだものだろうが、しかしそのシリーズが継続できていないことが、まったくもって今作らしいへなちょこさ!

んでもう、『そそり立つ学園の校舎』に始まって、それらのほとんどが≪ファルスのシニフィアン≫(勃起したペニスを象徴するもの)だとか。…そんなおしゃれなことば(?)で言ってあげるだけ損した気がするので、もう何も言ってあげない。
そして、当初のコミックラッシュから、多少はメジャーっぽいヤングガンガンに移籍して、ますますくだらなそうな今作「学園革命伝ミツルギ」。その表面的すぎる美しさ、そして内容のきわまった低次元さの暴走へと、いっそうわれわれの期待は高まるのだった…!

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