2010/02/21
野中英次+亜桜まる「だぶるじぇい」 - 米沢嘉博「戦後ギャグマンガ史」について
参考リンク:Wikipedia「野中英次」
関連記事:小此木啓吾「笑い・人みしり・秘密」 - 赤塚不二夫「おそ松くん」を再び見出すために
まず、米沢嘉博「戦後ギャグマンガ史」(1981, 新評社)について。前に関連記事で述べたこと、それが赤塚不二夫「おそ松くん」を、≪ギャグまんが≫の第1号に認定していることについて。
『基本的には、ギャグマンガの始まりを赤塚不二夫あたりにすることにする』(米沢嘉博「戦後ギャグマンガ史」, 2009, ちくま文庫版, p.18)。
だが。そうは言いながら同書が、第五章での「おそ松くん」の登場(p.143)まで、4つものチャプターをついやしているのがすごい。「バット君」とか「カンラカラ兵衛」とか、いまでは題名が知られるばかりの古い古いまんがの大量なあれこれを扱っているのがすごい。あわや、鳥羽僧正「鳥獣戯画」(12-13世紀, 正しくは作者不詳)だってギャグまんがのはしりでは、とでも言い出さんばかり?(そんなことは書いてありません!)
なんてことを言ってたら思い出したのは、野中英次+亜桜まる「だぶるじぇい」という当代の最新のギャグまんが(2009, KC少年マガジン, 刊行中)。そこに出てくる学校のへんなクラブの部長はまんが家志望で、その平安時代直系の…「鳥獣戯画」の作風を、ご先祖から受け継いでいるという。たぶんそのご先祖というのが、せいぜい3代くらい前のご先祖だろうと推理しているけれど!
そもそも「戦後ギャグマンガ史」にしろ、同じ著者の「戦後少女マンガ史」(1980)にしろ、それらの書名に『戦後』という単語は必要なのだろうか? なぜ必要なのだろうか?
まずギャグまんがの元祖が、おそくも1962年の「おそ松くん」であるとして。一方の少女まんがの元祖は、その定義によって倉金良行「あんみつ姫」(1949)か、手塚治虫「リボンの騎士」(1953)か、と見解が分かれるが(…筆者は前者をとりたい気分)。
どうであれ、戦中戦前にはギャグまんがも少女まんがも『なかった』ことは確かだ。すると著者サマは、なぜだか『戦後』ということばが大好きだったのかなあ…と、ここで筆者はへんなことを思うのだった。
ただし。「戦後ギャグマンガ史」の著者が「おそ松くん」以前の古まんがのこっけい部門をチェキってくれているので、われわれは同じところから始める必要がない。「おそ松くん」以降の本格的な≪ギャグまんが≫だけを、見ていてよい。これはほんとうにありがたいことで、まずそのことが筆者をして、それを『大名著』と言わせる。
まあそんなことを言いながら筆者は、昨2009年の夏に長谷川町子「サザエさん」の古いところを読んでいて、ちょっと強く感じるところがあった。なので、それもいつか考察の対象にしたいのだけど。
かつまた。『古い古い』とは言っているが、「サザエさん」や「あんみつ姫」と、「バット君」や「カラ兵衛」とは、同じでない。前2者は後2者とは異なり、こんにちにまで何度も何度もリメイクされ続けている、もろ現役のキャラクターに他ならない(…対して戦前派の「のらくろ」は、やや脱落ぎみ)。
≪ギャグ≫じゃないけど笑いを主眼とした作品として、ものすごい生命力を発揮している「サザエさん」と「あんみつ姫」については、まったくもってわれわれの考察に値しよう。とま、そんなことはともかく。
閑話休題…と言いながら、さいごに自分のぬるい回想談を書いて終わり(!)。筆者は同じ著者の「戦後少女マンガ史」(1980)を、刊行から間もないころに足立区の図書館で読んだ。『ほんとうにそうだなあ!』と、その論旨に共感したことを憶えている。それがいまでは、また少し異なる感じ方があるのだが。
ところが「戦後ギャグマンガ史」に関しては、つい最近まで未見だった。そもそも絶賛品切れ中の資料だったわけで、これを発見できたのは、2007年に筆者の勤務地だった葛飾区、その区立図書館でだった。
ついでにそこはまんがの蔵書が豊富だったので、「ときめきトゥナイト」や「セーラームーン」や「天使なんかじゃない」などは、そこで借りて初めて通読した。少女まんがばかりだが、いずこでも図書館のまんが資料は、少女向けが中心だ。
ところが困ったことに、葛飾で所蔵の「戦後ギャグマンガ史」は、いつしか検索端末でヒットしなくなってしまった。たぶん『古い古い』で筆者しか借りないような資料だったので、処分されてしまったかと思っている。
この葛飾の図書館は、三一書房『夢野久作全集』さえも除籍してリサイクル図書に廻してしまってたので、それはありそうだ。そしてその久作全集の「ドグラ・マグラ」(1935)の巻は、いまは筆者の手もとにあるのだが。
で、しばらくは「戦後ギャグマンガ史」を見れなくて困っていたのだが。自分が抜き書きしたその内容以外を、見失っていたのだが。それがご存知のようにちくま文庫版(2009)で再刊されたことは、ほんとうに喜ばしい。
何せ筆者もいろいろと調べたが、『ギャグまんがについてだけ書かれた1冊の本』というものは、何とニッポン国の出版史上に、それ1冊しか存在しないらしいのだ(!)。それがまた筆者をして米沢嘉博「戦後ギャグマンガ史」を、『まったく比類なき大名著』と断言させるのだ!
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