Mid 1990'sの『ASUKA』掲載の4コマ・シリーズ。これの単行本(あすかコミックスDX, 全1巻)はA5版でカバーは蛍光インクべっとりの特殊印刷で、本文にも4C2Cのカラーがたっぷりと、なかなかゴージャスなものになっている。
そのぶん定価のほうもお安くはないが(777円+税)、もちろん筆者はブックオフで105円で買ったものではある。何しろいまでは、まともには入手できない本でもあり。
さて、これに先立つ4コマ界の流れを見ておくと、まずは1978年に「がんばれ!! タブチくん!!」によるいしいひさいちのブレイクが…。というと話が遠大になりすぎなので、途中を略して、1985年に相原コージ「コージ苑」、87に喜国雅彦「傷だらけの天使たち」、そして89に吉田戦車「伝染るんです。」らが登場。といった1980's後半の青年誌の4コマの名作らに関して特記しとくべきは、いずれも豪華な特装版としてベストセラーを記録したことだ。
で、1990'sにはその流れが少女誌の4コマにも波及し、新井理恵「×-ペケ-」を皮切りに、きんこうじたま「H -アッシュ-」、にざかな「B.B.Joker」、そして今作らが、すてきな特装版で刊行されている。ちなみに書籍としての「ペケ」を特徴づける『小学館 フラワーコミックス・スペシャル』というシリーズは、「ペケ」を第1弾とするものだったそうだ(「ペケ」第7巻, 1999, p.5)。
かつ、「ペケ」以降の『少女まんがの4コマ』については、そこに質的な変化があると考えられる。1971年の『マーガレット』掲載のところはつえ「にゃんころりん」(←これも大名作!)のようなものとは、いろいろ異なる。
内容的にもそうだが、何しろ画面が違う。少女まんがならではの華麗な絵柄を4コマにぎちぎちと描きこむ…という方向性で大きな成功をおさめた作品が、「ペケ」以前にはない感じ。ゆえに、「ペケ」が初めてこの分野で特装版での刊行となった、その必然性はある(新書版では見づらすぎるので!)。
そして『4コマでありつつもぎちぎちと描き込む』というのは、「傷だらけの天使たち」が先駆けた傾向かと思うし。また「ペケ」という作品の別コミ掲載時、その後期におけるポジションは『もくじの後の巻末2Cページ』だったらしいが。それはスピリッツ誌で同じ位置を占めていた「コージ苑」や「伝染るんです。」に対応する、『ウラ面の目玉』としてのフィーチャーだったかと。
そうこうとすれば。かの名著、橋本治「花咲く乙女たちのキンピラゴボウ」(1979)にて確か、『少女まんがの“ギャグ”は、少年まんがのそれより5年とか10年とか遅れてる』のような指摘があったはずで(土田よしこ先生に関するチャプターで)。そこで言われていたのは、たぶん内容面のことだが。
それもさりながらていさい面において「ペケ」という作品は、約4~5年ほどの遅れをもって、当時の≪ギャグまんが≫の先端だった青年誌の4コマに追いついたのだ…と見られるのでは?
で、そのような流れの中から、今作こと「遊楽少女」も世に出たのかな…と。そこまでを見て、やぁ~っと今作のことだけど!
コレは筆者が意識的に≪ギャグまんが≫をあさり始めたことで、うれしくも初めて出遭え(そこね)た作品ではある。そしてどういったお話かといえば、うわさの『花咲く乙女たち』とやらが集いまくっている女子校に、ユリとバラの花々が咲き乱れる。
『バラはおかしくない?』とお思いやも知れないが、それは主として、乙女らの脳内に咲き乱れてるのだ。ついでに申すと、不気味なキノコまでがニョッキリと教室に生えてきて、作中で活躍したりもする。
…まずはこのお話のコアに、ボーイッシュでカッコいい女の子≪さとみ≫と、彼女の親友(?)かのように振るまう女の子(?)という2人がいる。主なる問題は後者なのだが、その人相を書いておくと、みょうにタテに長~い楕円形のツルンとした顔をしてて、パッチリと眼が大げさに美しくキレイな柳眉、そして毛髪が3本しかない(!)。前髪らしき1本と、両サイドの『おさげ』らしき2本が、それぞれ角ばった渦をまきながら。
という彼女の初登場シーンがまたひじょうに強力で、教室でさとみへとふつうに話しかけてくるのだが。しかしさとみは、そこでガッツンと固まってしまう。なぜならば、目の前の相手が知らんヤツだというわけではない、がしかし、
『わ…わからない!!
いったい いつどこで こいつと出あったのだろうか?
そんなバカな~? 』
という、あまりささやかでもない不可思議につきあたったからだ(p.4, 『ナゾの女』)。
で、そのふしぎさのあまりに思わずさとみは顔面を青黒く(?)するのだが、一方の『ナゾの女』はそのさまを見て、『変なサトミちゃん』とか言ってすましている。…かくてわれわれは、≪狂気の世界≫への扉を開いてしまうのだ。
『ナゾの女』と言われているが、このふしぎな女の子(?)の名前が、全17話中のやっと第10話にもなって明らかになる(!)…というのが、またあっぱれなところだ。で、その名前が≪果南遊(はてな・ゆう)≫と言い、それを聞いたさとみは、『そんなイカした 名前だったのか こいつ…!!』と、すなおに感心する(p.51)。がしかしこの名は、『ナゾの女』をカッコよく言い換えただけなのでは?
で、ストーリー的なものとして、ヒロインのさとみに対し。このハテナちゃん(らの大勢)が『百合』的なことをせまっていくかと思えば、近くの男子高の純情ボーイが遠くから彼女に想いをよせたりする。ただしこの少年はさとみを男子だと思い込んでいるので(!)、『自分がホモだったなんてっ』…という悩みをかかえつつ。
そしてこいつらの周りにいて状況をかき乱しかき廻すのは、『ホモの会』という部活(?)の部長≪キタジー≫。この少女は…申すまでもなさげだが、いまで言うりっぱな≪腐女子≫に他ならない。『レズもいいけど ホモもいいわよ』などとさとみに告げて、ノーマルでないことに関しては大いにやる気まんまん(!)、というところを見せるのだった(p.9)。
そこでさとみは『レズじゃねえ!!』と言って怒り、つい手に力が入って、持っていた牛乳か何かのパックをギュッと握りつぶす。するとその中の液汁が、ささっていたストローから『ピュッ』と元気よく飛び出す。等々の情景をヨコから見ていたハテナちゃんは、なぜかそのほほをそめて、『まっ』…とだけつぶやくのだった。
さてこのふかしぎな作品について筆者は、その意味するところを知ってはいる。が、別にそれを述べたくはない。むしろ、このよじれた愛にあふれ奇妙な花々が咲き乱れる≪狂気の世界≫を、いとおしくかけがえなきものと思うと、いまはそれだけ申しときたい。
【おまけ?】 作中のお正月の回でハテナちゃんが、『明けまして おめで とうり魔!!』と、まったくもってままならぬダジャレを言いやがる(p.65)。みょうに筆者が気に入ったので、皆さまもお正月に言ってみて! ぜひ、大ひんしゅくをかってみて…ッ!!
0 件のコメント:
コメントを投稿