2010/02/16
志水りょう「DOING」 - 生きよ、≪バトル≫としての日常をッ!
参考リンク:AMAZON「志水りょう/DOING」
ずいぶん前だが、どこかのBBSで『何ンかドッと笑えるよーなギャグまんがって、ない?』のようなスレッドが微妙に盛り上がっていて、これはそこでその存在を知った作品。月刊少年ジャンプ掲載作、2001年にジャンプ・コミックス全1巻として刊行。ずいぶん探して、綾瀬の古書店でやっとめっけることができた。
他にもいろいろとそのスレッドで知ったタイトルはあるが、にしても今作だけは、他の場所ではまったく評判を聞かない。ってまあ、それは筆者の見聞が狭いからだろうけど。
で、思うのだが。『ジャンプのギャグまんが』というものは、なぜかわりと必ず、ギャグじゃないジャンプ作品らのパロディになっている…という風味がある。特定の作品のパロディでなくとも、そのありがちな語法をパロってる、という場面をよく見る。
イチバンよくあるのはバトルまんがの、例のセリフ廻し。たとえば、『なにィィィ!?』、『××だとォォォ!?』、『させるかッッ!!』、『これで最後だァッッ!!』…みたいなきわまりきったダイアローグが、異様に低レベルな局面で出る…というあれ。
われわれのリスト上の作だと、1996年のうすた京介「すごいよ!! マサルさん」および木多康昭「幕張」から、そのような方向性がハッキリある。しかしおそらく筆者が知らないだけで、その行き方はもうちょっと古くからありそうな感じ、かな?
で、わりに新しいのだと。近ごろ初めて大江慎一郎「私立ポセイドン学園高等部」(2008) という作品を読んだところ、それの第1巻・巻末のおまけまんがが、ひじょうに毒々しいパロディになっている(第1巻, p.176)。
詳しくはそれを主題にしたときに語りたいが、その作品は。『ギャグ』でなく『フザケてない』と目されるジャンプのまんが作品らの、あんまりな連載のくそ長さ・バトル規模の超インフレーション・グロに傾斜した趣味の悪さ・死んでも適当にすぐ復活するストーリー上のご都合主義…等々の特徴が、ようしゃなくえぐり出されたパロディになっており。そうしてさいご、敵ボスが『地球2億個』をゆうにフッ飛ばすだけのエネルギーを放出、というところで『ヒキ』になっているのだが。
一方の本題たる今作「DOING」は、両親と2男1女とネコ1ピキによる≪清水家≫のめんめんが、その日常をジャンプ風味の≪バトル≫として生きる、という連作だ。その日常的でひじょうにささいな『行動(ドゥーイング)』たち、それらをおろそかにせず全力でやるべし、その積み重ねこそが人生なのだから…というのがたぶん、今作のテーマ的なところだ。
さいしょのエピソード『まんじゅうを食べる家族』が、そのような今作の主張を表してあますところがない。一家5人がいただきもののまんじゅうを食べていて、16個入りの箱詰めなので、誰か1人だけが4コめを喰える計算になる。
…と考えた長男が4コめに手を出すと、すかさず長女がお茶をいれるふりをして、その手をビシッとブロックする。という場面で、『圭子め 気付いてやがるッ!!』、『甘いわね 学(まなぶ)兄さん この私が 見逃すと 思って?』と、2人は内心のセリフを交わし、両者の視線が空中で火花を散らすのだ。
こうして戦端が開かれると、やがて次男や父親もが、そこに参戦してくるのだった。圭子のブロックのするどさを知った学クンが、『左が駄目でも 右がある!!』と内心で叫んでそっちの手を出すと、それを手の甲でブロックしたのは次男の誠クンだ。
という展開にびっくりしている学クンに父親がニヤリと笑いかけ、そして『チッ チッ チッ』と言って、ひとさし指を左右に振る。なんて場面に描き込まれた擬音らがまた、ジャアッ、ビシイッ、ドオン、オオオオオオ…と、こりゃまた迫力マン点なのだった。
で、そこからは口先のバトルとなって、こいつらがそれぞれに、『長男だから』、『やっぱりレディーファーストよね』、『ボクって、育ち盛りで食べ盛りだし』、『ココは一家の長が!』…等々とへりくつをこねあう展開に。
なんてことばの内容はともかくも、そのたびにスゴい擬音と画面効果がビシビシと飛びかって、彼らの心理戦のテンションは高まる一方なのだった。そして、バトルの結末がどうなったか…ということは、読んでのお愉しみとして。
ただしこの一家にあって、ふだんおっとりしてるが怒らすとひじょうにこわい母、彼女だけはバトらない。なぜかって、文句なくさいしょから最強だから…という見方ができるけれど、しかしいきなりそこを見ては興ざめか。
という、シリーズのすべり出しはひじょうによかったと思うのだが。しかし惜しくも、その後に続いたエピソードらが地味だったかも。明らかに、いま見たさいしょのまんじゅうのエピソードがいちばん面白い、というのでは問題やも知れぬ。もうちょっと、たたみかけるようにシリーズのペースが上がっていればなあ…。
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