2010/02/17
長尾謙一郎「おしゃれ手帖」 - ブサイクさんにもそれはある
参考リンク:Wikipedia「おしゃれ手帖」
『ヤングサンデー掲載のギャグまんがには、≪ギャグまんが≫というにもストレンジすぎるヤツが多し』。今作はそのような筆者の想い込みを、「ケンネル所沢」、「the 山田家」、「踊るスポーツマン ヤス」、等々々らと並んで、実証してくれている作品。ヤングサンデーコミックス、全10巻。
とまで申して終わりにしたい気がマンマンだが、いちおうあらましのご紹介まで。
えっと今作「おしゃれ手帖」は、その…よく言って、中原淳一チックな世界とでもいうか。感覚がレトロでアナクロな『女学生』のヒロイン≪小石川セツ子≫が、「ジュニアそれいゆ」的に(?)、おしゃれでさわやかな日常を生きようとするのだが。
しか~しご存じのように、われわれの生きている≪この世界≫には、ダサさと不潔さとが蔓延しておりッ!
そこのところのギャップで彼女が、いちいち≪外傷≫をこうむる…のようなお話かと。で、そのダサさと不潔さを、『これでもかこれでもかッ!』と、露悪的にめんめんと描いているのが今作の『内容』かと。…等々、言えなくもなさげ。
で、どういうところをご紹介したら、そのふんいきをお伝えできるのだろうか?…というところで筆者は苦しむ。だいたい今作につき、一時はおもしろいような気がしてたのだが、いま見てたら、『よくもキモチ悪いことばっか!』…という気しかしないし。
プラス、笑ってたころにはあまり気にならなかったことだが。今作には一時の湯村輝彦センセのおまんがのような、1980'sチックなサブカル臭・前衛ムードがなくもない。そんな時代に、やたら死体の写真を画面に貼りこんでたのは、どちらの先生だったっけ…?
そしてこちらのご本にも、死体ではないけど本編外のあちこちに、へんな写真らが挿入されてあり。どう申すべきか、まあそのそれらが『アングラ』っぽいムードを、ムダに盛り上げているのだった。
試みに、脇役のエピソードだけど、1つ見ておけば。セツ子のクラスに≪現子≫、通称≪メガネ≫という子がいて。そしてその『メガネ』というアダ名はひじょうに遠慮のきいたもので、ようはドブスでおデブな女の子で。
その彼女が学校のテスト中、窓の外に『ドドメ色の落ち葉がハラリ』という景色を見て、『なんだか 秋~って カンジ~…』などとひたってみた次の瞬間、『ぶぇく しょぉおん!!』とスゴいくしゃみをする。その拍子に彼女の鼻の穴から、サンマとマツタケが飛び出す(←はい出ました、『不条理ギャグ』!)。
すると喜んで現子はそれを、自分の後ろの席のセツ子に差し出して、
『鼻水つき 秋の風物詩、おすそわけしま~す!!』
と言うのだが、セツ子は『静かにして』と、まったく現子にとりあわない。何せテスト中だし。
そこで次に現子はそれを、クラスの人気者の≪藤堂くん≫に『おすそわけ』しようとする。その美味たることをアピったつもりなのか、彼の目の前で『チロチロ』と、マツタケに自分の舌を這わせる。すると彼から無言のボディブローを喰らって、その拍子にまた、1セットのサンマとマツタケが、現子の鼻の穴から飛び出す。
どうして自分の振るまいが歓迎されないのか、と考えて、現子はふと鏡を見る。すると、『歯に青ノリ へばりついてる~』と気づく。ソコで彼女はペロンと舌を出し、自分の脳天をコツンとこづき、
『な~るヘソ、これじゃ キラわれる わけです… 乙女、落第~』
と、まったくどうも申せぬモノローグを展開する。
等々とテスト中の悪ふざけが過ぎて、ついに先生が怒って現子を張り倒す。するとまたその拍子に、1セットのサンマとマツタケが、彼女の鼻の穴から飛び出す。
さらに先生から家庭に連絡が行って、『ママに あんまり 恥かかせないで ちょうだい!!!』と、母親からも叱られてしまう現子。キョーリョクな体罰があったとみえて、ママの右手と現子の両頬が、真っ赤にはれ上がっている。
そしてその母子2人は、部屋の中にあふれかえったサンマとマツタケに、腰までも埋もれている。その状況で、エピソードの終わりに現子がもらしたモノローグは、
『なんか~… 生臭~いって カ~ンジっ!』
ときた。
というお話(第4巻, p.55, 『乙女のほーてーしき! ホットミルク+恋愛=奇病!?』)の意味するところを、そして『サンマとマツタケ』という奇妙な記号(意味ありげだが意味不明な記号=シニフィアン)らのさし示すところを、われわれは知ってはいる。
…だがそれを、別にわざわざ言いたくはないってカ~ンジっ! 『ニンゲン誰しも性欲が、ある』とのテーゼがすでに≪外傷的≫であるところへさらに、『ブサイクさんにも、性欲がある』などという話へ、“誰”が耳を傾けるというのだろうか?
で、そのような『1つの正しいお話』を描く作品であるこれは…ということは認めた上で。にしても筆者が今作をもはや笑えないような心境にあるコトは、すなおに申して『心の弱り』の徴候なのやも知れぬ。ギャグまんがを笑うことは(狂人ならぬ)常人の特権であり、さらにある種のギャグ作品は、ふつう以上に心がタフでないと笑えない。
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