2010/02/16

尾玉なみえ「純情パイン」 - 思春期のおとぼけ血まみれダイアリー

 
参考リンク:Wikipedia「純情パイン」

ご存じのように、この作者こと尾玉なみえ先生の過去のご本らは、いずれもひじょうに入手困難。特にこれと「ロマンティック食堂」は、ずいぶん足を棒にして捜したあげく、や~っとゲットした。
追って今作と「少年エスパーねじめ」をカップリングしたコンビニコミック版も出たが、「ねじめ」に関してはジャンプ・コミックス版(全2巻)のゲットを強くおすすめいたす。コンビニ版には入ってない、作者の初期の短編らが載っているので。

で、そのジャンプ・コミックス版「少年エスパーねじめ」第1巻の巻末(p.175)に所収の、初期読みきり版「純情パイン」。筆者にとっては、それがすっごい作品なのだ。なので変則だが、まずそこを見たい。
比較すれば正式版「パイン」の方には、いちおう『説明』がある。≪純情パイン≫という巨大なヒロインが何であるのか、その敵が何ものなのか、多少は『説明』があるが…。

けれど初期版「パイン」の方には、何の説明もない。
いわく、『みつおと みちるが 交換日記を 五分以内に 二往復させると… 大きい乙女 純情パインとなる 純情パインは 怪獣と戦う』。とばかりが≪設定≫として冒頭で語られて、それ以上の『説明』は何もない。

しかもそのストーリーの展開が、われわれの≪外傷≫をえぐりまくり以外の何でもない。まずは小学校の放課後、イジメられっ子のみつお君がクツを隠されて困ってるところに、ヒロインのみちるが登場する。そこでみつお君の提案で、2人はむりに二人二脚の要領で肩を組み、外側の足にはみちるのクツをはき、内側の脚は上に折り曲げて、下校しようとする。
すると彼らは汗をかいたので、『みちるの ワキの下から おかしな 匂いが…』たちのぼり始める。その匂いをみつお君が夢中でスースーと、『かいでるぅ…』と、みちるは気づく。

それに困惑して、『少し休憩を』と提案しよーとしたところでみちるは、みつお君のズボンの前の部分に異状を見て叫ぶ。『ちんちん ふくれ てるう!!!』…と。
するとその瞬間に、どこからともなく住宅街のど真ん中に、大怪獣が出現する。みつお君が『かいじゅうが でた!!!』と叫ぶのを聞いてみちるは、『なんで? みちるの匂いの せい?』と、ひじょうに奇妙なことを考える。

そして、ズボンの前を突っ張らせたまんまで『はやくぅ 変身 変身~』と、怪獣退治にやる気まんまんなみつお君。しかしみちるの方は、『変身… やだな…』と考えながら、そして『ちんちん しぼめなさぁーい』と叫ぶ。
で、ともかくも変身が成功して、巨大なヒロイン≪純情パイン≫が登場。そしてその頭部に搭乗してる的な2人は、『純情万力』とワザの名を叫び、背後から怪獣の頭部を万力にかける。すると敵の頭は『ぱいいいん』と音を立ててはじけ飛び、あわせて血しぶきが飛び散る。

…で、そのもうれつな返り血のしぶきを浴びて、パインとその中の2人は、ビチャビチャの血まみれに!
その状態で、へんな笑顔をたたえて勝ち誇ったパインの内側で2人は、シメの文句を言う。みつお君は無表情で『じゅん じょおおお』と叫び、そしてみちるはうんざり気味に、目のあたりに付いた血を手でぬぐいながら『パ… パィ… パイン…』、とつぶやくのだった。

とまでが、さいしょの4ページの内容。この初期版の「パイン」は、4P単位で区切られたエピソードが全5本、という少々変わった構成になっている。で、以後もほんとうに≪外傷的≫と申すしかないようなエピソードらが続くのだ。
別に分析的な見方などせずとも、さきのお話に対してほとんどの皆さまが、『何か分からないがイヤな感じ』とか、≪不安≫とか…。そういうものを感じられたのでは? 表面的にもイヤなお話だが、何かもっと以上のイヤっぽさを感じられたのでは? つまりそれが、≪外傷≫のあるところにかすってる…ということだ。

で、ごくふつうに見てさきのストーリーにては、『怪獣退治』が、みつお君の≪性欲≫を鎮めるということと、なぜかイコールになっている。ここでの怪獣とはみつお君の≪欲動≫に他ならぬしろもので、それを鎮めるのに、みちるの協力が求められている。
という事情に気づき気味なので、みちるは≪変身≫を『やだな…』と言うのだ。もちろん2人が合わさっての≪変身≫は、≪性交≫を婉曲に表している。

しかもそうしての戦闘の帰結は、血まみれのモノをはじき出す。
ここにてはそれとなくも、妊娠中絶や嬰児殺しのイメージが、怪獣退治とオーバーラップしている。そのような、胸の悪くなるような≪外傷的≫なストーリーがその中に、潜在しているかと見れる。
で、そのように見なければ、さきの物語の≪意味≫はさっぱり分からない。ギャグまんがだから『ナンセンス』なのだ…ということでも、ぜんぜんよいのだが。けれどもわれわれは、フロイトが見出した『無意味の意味』とやらを、ギャグやこっけいの中から捜す…というタスクを負っているのだった。

そして。よりかんじんかと思われる話題、正式版「純情パイン」(ジャンプ・コミックス, 全1巻)について。こちらの側にも『みちるの出産』(!)などをはじめ(p.122)、≪外傷的≫なエピソードらがずいぶんと、あるにはあるのだが。あと、こまわりクンの『死刑!!』のカッコで逆に『無罪』と言う(p.80)…なんてギャグがよいと思うし。それこれで正式版もまた、すばらしい創作だと考えるけど…。
しかし筆者はすまんようだが、何の言い訳もなくプイと放り出されたような初期版「パイン」の方に、創作としての魅力を感じちゃってるのだった。その作品の態度を見習って、筆者もまたあまり言い訳はしない。

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