2010/02/16

噌西けんじ「動物のカメちゃん」 - それもこれも、何せカメだけに!

 
参考リンク:Wikipedia「動物のカメちゃん」

街に新しく開店しようとしているペットショップ、≪万華堂≫。ところがその経営がとんでもなくインチキで、その辺にいるどうぶつを拾ったりヨソんちのペットをさらったりして、何とか店のカッコをつけようとしている(!)。
そしてそのとばっちりで、さらわれてしまったマルチーズのラッシー君。彼がその万華堂の店内で出遭(いそこな)ったのが、≪カメちゃん≫と呼ばれるふしぎなふしぎなどうぶつなのだった…!

という感じで始まる今作(少年サンデーコミックス, 全5巻)、人呼んで『新感覚・動物パニックギャグ』(第1巻, カバー表4)という作品。これについて、むかし初読のころには、全般にややインパクトが不足か、なんて思ってた。
しかしこんどの機会に再読してみたら、その内容に『抑制』のきいてるところがよいなあ…と、まるっきり逆のことを感じたのだった。エロなし、スカトロなし、だじゃれもなし、そして過剰なグロ・残虐・暴力表現らもなし…と。

てのも。正直申してここ数日の筆者は神経が弱りぎみで、あまり刺激のあるものにはふれたくないのだった。そういった読者に対して、ちょいといい感じに機能する…というのもまた、りっぱなホメことばになっていると思うのだが…!? かつ、そこまでも抑えた内容で、ちゃんと現代的な≪ギャグまんが≫になってるのは、りっぱだと思うのだが!
(注・この堕文は、2009年の夏に書いたものを加筆修正して再利用している)

さてそのヒーローであるカメちゃんが、実にふしぎな動物で。まず、どうぶつ語と人語がペラペラのバイリンガーだし。そして寸法がみょうに小さくて『ゼニガメ』という感じで、2足で自由に歩行し、しかも甲らを着替えできる!(凡俗なカメは、甲らをはがすとオダブツらしい)
かつ、ふつうのカメとは異なりカメちゃんは、頭の中に体のぜんぶを引っ込める(!)、というスゴい芸をもつ。しかも彼は、誰に対しても常に保護者きどりの態度と『上から目線』で接し、そして『自分は“何”でも分かってる事情通』、みたいなでかい口を利いてくれる。
というわれらのカメちゃんについて、何せ『カメ』だけに≪ファルスのシニフィアン≫である、と指摘するのもバカっぽいが、しかしそうなのでしょうがない(…精神分析用語で≪ファルス=陽物≫とは、『象徴化されたペニス』。≪シニフィアン≫は、『意味ありげだが意味不明な記号』)。

とは言っても、カメちゃんの場合には性的な意味作用はそんなになくて。しかし、みょうに『その世界』の中の『カゲの支配者』を気どっていそうなところが、≪ファルス≫チックなうっとうしさかと見ゆる。
なぜならわれわれは≪ファルス≫というものの性格として、『意味作用のあるところに遍在する』ということを見ており。そしてカメちゃんが、みょうに『どこにでも』顔を出す、そのあつかましさとイヤらしさが、ちょっとそれ的なのだ。

で、そのようなカメちゃんが目の前の相手らに対し、おかしいことを振ってショックをしかけるという挙動があって、それが今作の主なる『内容』だ。そしてその『被害者』が、ラッシー君を第1号に、ゴールデンレトリーバーのジョン君、高校生の雄三くん、並行してその先パイの烏丸くん、最終的で決定的なパートナーとして小学生のはじめ君、合い間にちょこっと女子高生の篤子…等々々と、全5巻を重ねる間に変遷している。

ここらでお話を1コ、ご紹介しとこう。『今夏は水不足』というTVのニュースを聞いているカメちゃんは、『そりゃたいへん』と言いながらジョバジョバと水をたれ流しながら行水していて(!)、そして、何か一計を案じたもよう(第3巻, p.37-44, 『水不足のカメちゃん』)。
追って次のシーン、はじめ君が友だちに誘われて『デザートワールド』というテーマパークへ行くと、それはむしょうに広大な砂漠であるだけのシロモノで、甘い方の『デザート』じゃないので彼らはガッカリ! そして、そのゲートふきんで『とうぜんかのように』はじめ君らを出迎えたカメちゃんは、水不足に備えてサバイバルを学ぼう、『世界で最も過酷なテーマパークへようこそ!』…などとぬかすのだった。
で、東京ドーム46個分の敷地にサハラ・ゴビ・タクラマカン…と多種多様なる砂漠を完ぺきに再現したというパークの中に、カレらはペットボトル1本の水と地図だけをもって踏み込むのだった。

するとその過酷さがほんとにすごくって、まずは備えつけの機材らがほとんど砂に埋もれているので、使うには掘り出さねばならない。観覧車やコースターもあるが、それらも半ば埋まってるので、眺望は砂だけだ。フードコーナーには『サバクドナルド』とか『砂っく』とかいう店らが出ているが、食べ物はぜんぶ砂まみれ。もううんざりしてさっさと出口に向かったら、あったと思われた出口が蜃気楼(!)。
そうしてはじめ君たちがひからびながら、この砂の迷宮を脱したのは、約6時間も後! で、独りだけぞんぶんに砂の世界をたんのうしたカメちゃんによる、シメのセリフがまたよい。

『次は隣にできた ウォーターワールドに みんなで行こう! 地球温暖化現象による 海面の上昇を再現した 水中のテーマパークなんだ!』

そういえば英国のJ.G.バラードという小説家(スピルバーグ「太陽の帝国」の原作者)がいて、その人の初期のシリーズ作に「燃える世界」、「沈んだ世界」、といった一連の『破滅ものSF』があったが。これらは、それか。かわいい顔してカメちゃんは、われら人類の末路をあらかじめ見せてくれるというのだろうか。
またそういえば、カメというどうぶつの特徴としてふつうに、『サバイバルに強い』。筆者は小学生の時、学校の体育館ウラの地中からカメを掘り出したことがある。死んでいるのかと思われたそれだったが、ためしに水槽の中に放り込んでみたら、手足と頭を出してスイスイと泳ぎ出したのだった。

ところで巻が進むごとにはっきりするのだが、このようなカメちゃんのゆかいな挙動らは、『ツッコミを求めてボケている』のであるらしい。カメちゃんがその『相方』をしばしば変えるのも、彼の理想のツッコミを求めてのことらしい。
しかしながら! ノリまくっていた時期のカメちゃんは、そんな議論とかヌキで、ようしゃなくマシンガンのようにボケたおしていたわけで!

それがそうじゃなく、ツッコミが浅いとか甘いとかいう談義が出てきているのは、逆にカメちゃんのボケにキレが乏しくなっているからではなかろうか? ついでにカメちゃんは、先にボケをかまされるとリアクションが弱い、ということも指摘しておこうか。
それこれを反省したのかどうかは知らないが、第4巻の半ばで彼は、ヒッチハイクで修行の旅に出る。そしてその旅の空の下で、コソコソと独りでボケをかますたび心の中に、はじめ君のやさしいツッコミを感じるのだった。そこがみょうに感動的なような気がして、思わずジワリと、心の弱り気味な筆者を泣かしてくれるのだった…!

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