2010/02/23

古谷実「行け! 稲中卓球部」 - 罪と罰、バターとマーガリン

 
参考リンク:Wikipedia「行け! 稲中卓球部」

この作品いわゆる「稲中(イナチュー)」は、歴史的に見たら『青年誌のギャグまんがは、4コマが面白い』…みたいな空気の時代が6~7年も続いた後に、異なるものを示して1つのブレイクスルーを達成した作品だと言える(ヤンマガKCスペシャル, 全13巻)。ポスト・バブル時代のふんいきを映した作品だとも言えて、ニホン人のみっともない顔が平気でリアルに描かれ、そしてカッコよくはない地方都市の中学生たちの生理と生態が、平気でビシビシと活写されている。毛はもう生えたが、いまだムケてはいない…的なそれが。

ただしちゃんとした≪ギャグまんが≫の作品として今作は、単にそこらへの≪共感≫をあおっているのではない。飛躍してるとこがある。
どうしょうもなくある≪もの≫が、そこにて読者へとつきつけられている。初期のエピソードで筆者に印象的だったものを、1つご紹介。

ボーズ頭でチンチクリンでむっつりスケベの≪田中≫が卓球部の部費を盗むのを、毛むくじゃらの大男だが心やさしい≪田辺クン≫が目撃する。何か理由があるのでは…と考えて田辺クンが田中の後をつけると、テキはスーパーで“何か”を大量に買い込んで路地の奥に向かう。
するとたくさんの野良イヌ・野良ネコらが集まってきて、田中は“何か”エサっぽぃものをかれらに与えるカマエに。それを見た田辺クンは、このどーぶつらを養うために田中は部費に手をつけたのかと考えて感動する。そして、『それにくらべて 僕は』ッ!…と自責の涙にくれながら、その場から走り去るのだが。

しかし田中はその場にて、いま買い込んできた大量のブツ…バターやマーガリンを自分の局部らに塗ッたくッて、それをケモノらに『ペロペロ ピチャクチャ』と舐めさせて、悦びにその顔を歪めつつ、『はあ はあ はあ はあ』…と≪享楽≫をむさぼるのだった(!)。やがて田中のゼッチョーの叫びと田辺クンのむせび泣きとが、『ああああ ああぁぁー!』と、空間を越えて妙なるハーモニーを奏でるのだった。
…字では伝えにくいところだが、その決定的場面での田中のポーズと表情が洋ものポルノの女優ばりの、オーバーアクション気味な悩ましさで…(!?)。それが、また、このエピソードの衝撃性をいや増しているのだ。

そして翌日、田辺クンは田中の罪をかぶって自分が部費を盗んだかのように部員らに打ち明け、『どんな罰でも 受けるよ』と言う。これを彼は、『田中君を ケーベツした(自分への)罰さ』…と考えている。
するとふつうに彼は仲間らに超ボコられ、真犯人の田中にまで暴行を喰らって(!)、そしてボロッボロの状態で路地裏に『ドサ』、と棄てられる。そして彼はそこに小さなスミレの花を見つけ、血まみれで路上に伏したまま手を伸ばし、それを両手で包むようにしながら、『き… きれいだなぁ…』とつぶやくのだった(第2巻, p.187, 『その23 友情』より)。

と、このように。ある者は自らの罪からひたすらに逃れ、またある者は自ら受罰を望む。そして同じような『路地裏』という場所に、ある者は≪享楽≫を見出し、またある者は護るべき『小さな花』を見出す。
激甚な苦しみによって田辺クンは、彼から田中への一方的くさい『友情』という『小さな花』をあがない、それを護りきったのだ。そしてこの一件が『勘定』として引き合っているのかどうかは、はたからはどうとも言えそうにない。
と、ひとまずはそういう話にしておいて。なおこの作品について独自の感想を聞かせてくれた、かっての同僚に感謝しつつ。ではまた。

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