2010/02/23

三ツ森あきら「LET'S ぬぷぬぷっ」 - 入門! アシッド・マシーンになるために!

 
参考リンク:Wikipedia「LET'S ぬぷぬぷっ」

これぞ現代の「神聖喜劇」(ダンテ「神曲」)とばかりに(?)、≪ナンセンス≫とも呼ばれる地獄的な世界のあちらこちら、その多種多様なる眺望を経めぐっていく作品。それが、「LET'S ぬぷぬぷっ」(KC少年マガジン, 全9巻。自由なショート形式のオムニバス)。
そのもっとも凝縮されちゃったかたちにては、今シリーズを代表しているキャラクターである≪スシ猫くん≫が、ただ単に死ぬ。…死んで死んで死に続ける、その姿を単なる≪反復≫として描く。

すなわち。今作の第1巻カバー見返しの4コマは『クレー射撃ネコ』と題され、まずケージの内側の射撃手が『はいっ!!』と叫ぶと『カシャーン』という音がして、スシ猫くんが空中高くへと打ち上げられる。そして『パーン』と銃声が轟いたら、彼はバラバラになって色あざやかな臓モツを空中にブチまけながら、そのままの軌道を描いてどこかへ飛んでいく。そこへ再び、射撃手の『はいっ!!』という声が響く。
…というところでまんがはあっさりと終わりだが、そうしてまた次々と、射撃のまとをつとめる別のスシ猫くんたちが空中に打ち上げられ、そして次々に銃弾を浴び続け、死に続けるのだろう(…スシ猫くんとは『一にして多なる存在』であり、いくらでも代わりがいるらしい)。この≪反復≫には、原理的に終わるところがない。

ちょうど今作が世に出た1993年の世界を特徴づける、≪アシッドハウス・リバイバル≫という現象。その中で悪夢的な≪反復≫をしつように愚劣にはげしく遂行し続けた≪ハードアシッド≫の振るまいに同期しそれへと共振しつつ、今作は死とオーガズムの≪反復≫をあくなく描いている。
…学校の教室で、委員長選挙か何かの最中。黒板に向かっている1ピキの女生徒は、候補者らへの投票を、“正の字”ではなく“性”という漢字で集計している。よって黒板いっぱいに、“性”という漢字がビッシリと書きまくられている。
やがてこの異状に耐えかねた教師が、『バカモノー!! ふつうの“正”でかかんかー』と、彼女を叱るのだが。しかし女生徒は興奮に上気したキレイな顔を教師に見せながら、『ああ… いけない私を 殴って…』などと言うばかりだ(第1巻, p.44)。

ささやかにも≪権力≫の所在を定めようという“法”的な儀式のど真ん中に、≪享楽≫を求めてやまざるドロッドロの≪欲望≫が、1ピキの少女というかたちをとって現出している。そしてこのエピソードに限らず『少女-と-オキテ(校則)』のたわむれは…そしてそこに現前するドログチャの≪享楽≫は、今作の最重要モチーフの1つだ。まさに校則とは≪拘束≫に他ならず、そして少女らは≪拘束≫されてあることをぞんぶんに≪享楽≫する。

すなわち『買い食い』は禁止だ、と言われたら≪ネズミ小僧≫のような扮装をして『盗み喰い』に及び(第1巻, p.140)。またはトイレへの落書き禁止だと言われたら、誰も気づかなそうな和式便器の前部の内側に何かを書く(第1巻, p.174)。そして、便器を背負って仰向けになるような苦しい苦しい体勢をとってまで落書きをヤリおおせた少女は、『フフフ…』とマン足げにほくそ笑む。
その落書きを誰かが見るかどうかとか、何をそこに書いたのかとか…。そんなことらは彼女にはどうでもよくて。なされていることの主眼は、『オキテとのたわむれ』に他ならない。
さらにスゴぃのでは、『夏休み中 力士と ぶつかり稽古を してはならない』というアナーキー気味な校則が紹介され、そしてじっさいそれをヤッてる女生徒の姿が描かれている(第1巻, p.108)。そんなことはふつうに、禁止されているからこそなされているのだ…と考えざるをえぬ。かくて、それを守るにしろ破るにしろ『オキテとのたわむれ』は、彼女らにジュクジュクの≪享楽≫をもたらす。

そうして今作の題名中の『ぬぷぬぷっ』とは、ほぼあからさまに≪性交≫というものを暗示している語であり。そして再生産のための運動かとも見られる≪性交≫は、当事者らに≪享楽≫を供給しつつ、その≪享楽≫は同時に『個体の死』への予告でもある。
そしてそこにきざしている意味をうすうすとは感じながらも、どこからか聞こえてくる『LET'S ぬぷぬぷっ』という≪享楽≫への扇動…それへと従う時に、われわれは≪アシッド・マシーン≫のバカくさいひたすらな≪反復≫を模倣している。と同時に、機械さながらにうでの立つ射撃手の声が、『はいっ!!』、『はいっ!!』…とどこかで響き続けてることをも感じつつ。

かくて今作は、われわれのためにわれわれの姿を、きわめて正確に描いた作品に他ならない。すまぬことにずいぶん長い堕文を書いてしまったわけだがしかし、この驚くべき作品への賛辞としては、まだまだぜんぜん足りないッッ!!

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