2010/02/22

あろひろし「ぱらのい屋劇場」 - 汁ひとぞ汁、ナンセンスの名編っ!

 
参考リンク:Wikipedia「ぱらのい屋劇場」

正しい作者クレジットは、『あろひろし と スタヂオぱらのい屋』。そして認識不足で申し訳ないと、いちおうおわびしときたいのだが…。
今作の作者につき≪ギャグまんが≫の描き手でもおられると知ったのは、わりとごくさいきんのことだ。いままでずっと、ラブコメ方面の作家さまかとばかり。
『オレはポケモンマスターに…じゃなくて、“ギャグまんが博士”になる!』みたいな決意を筆者がしてからけっこう経つが、やっとさいきん今作がその探査網にかかったのだ。ここで今作のていさい面にもふれておくと、自由なショート形式で全ページ4C/2C、けっこう下ネタや残虐なギャグが多し。

で、まず大いにほめたいこととして。今作の「“ぱらのい屋”劇場」とゆう題名が大いにイケてると、筆者は思う。なぜって、われらのラカンちゃまが初めて世に出た時代(Mid 1930's)に、『“パラノイア”の専門家!』みたいに通っていたので…!

さてこれの単行本(ジャンプ・コミックス スペシャル, 全2巻)が世に出た1989年といえば、言うまでもなく(!?)、吉田戦車「伝染るんです。」の年。そして今作には、わりとそちらに対抗しているような感じもなくない。大判でオールカラーのわりとぜいたくな作りだし、かつわりと凝縮された≪狂気≫を描出してる…というあたりで。
しかし比較すれば今作は、飛ぶべきところで飛びきれておらぬようでもある。『だからよくない』とも軽くは言い切れないが、『常識からの飛距離』がそんなにない。
まあこれは、本来なら飛べぬ距離をみごとに飛びきった「伝染るんです。」の方をほめとく場面だ。と言ったところで今作から、心にに残ったネタを1つご紹介いたせば。

病院のレントゲン技師が、『しまった!! バリウムが足りない!』と、あわてている。そして次の場面では被験者の美女が、『このバリウム… なんか生臭い…』と苦情を言っているが、技師は『そ… そうかい?』と、そらトボケている。
と見たように、『美女になま臭い汁を呑ませたいっ!』という≪欲望≫がまずありつつ、そこに『バリウムが足りない!』という言い訳(合理化)がついて、ネタが成立している。この作例は、これとしてよいと思うのだが。

しかしだんだんとこの時代から≪ギャグまんが≫の流れは、『言い訳が、特にない=≪不条理≫の噴出と反復』…という方向に向かってたのでは? と、筆者は見るのだった。
そして今作について、これも≪不条理ギャグ≫なのか?…と問うてみたとき、自分の中から『否』という声がはっきり聞こえた。その1つ前の世代の、『ナンセンスギャグ』という表現がふさわしい気がした。他の作品を見ても常にそうだが、あろひろし先生の読者に対してやさしい語り口は、言い訳のないような創作を生み出すには向いていない。

【付記】 むしろ、こっちに言い訳が必要かもしれない(!?)。これがまた、2009年の夏に書いていた堕文の再利用で。いまも筆者は大いに無知だが、当時からすごい無知だった。
追って、この作者の別の作品、「ふたば君チェンジ!」や「ザ・シェリフ」などいくつかを読んだが。しかし筆者は今にいたるも、あろひろし先生の作家像がつかみきれない。常に誠実な創作をされているということはほんとうに明らかで、そこは大いに好感が持てるけれど!

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