2010/02/17
田村逍遥「先生あのね」 - 『毛づくりケーキ』、スイーツ!(笑)
参考リンク:tails-room「田村逍遥」
小学校の新米教師≪永井道典(ながい・みちのり)≫センセイと、彼のクラスのゆかいな子どもたちを描く4コマ・シリーズ全1巻(りぼんマスコットコミックス)。と、あらましをご紹介して、あとは好きかってな感想だけ記しておけば…。
これはほとんどの部分を掲載誌のりぼん(1995-2002)で読んでたのだが、童顔の永井センセが妻帯者だということが途中でいきなり発覚して、ずいぶんびっくりさせられた。そこで生徒の1人が『プロポーズの言葉って なんだったんですかー?』などと聞くので(p.116)、先生はいったんはぐらかすが、しょーがなしに教えるのだった。
さいしょキリッとした顔で『僕の妻になって くれないか…』と言った後、そしてナゼなのかポッと頬を赤らめて、『百歩譲って 養女でもいい!!』…と。
それと、この単行本には作家のデビュー作でもあるシリーズ「摩訶不思議」があわせて載っていて。その主人公たちはたぶん中学生で、自分としたらこっちの作品の方が好みかも知れない。
で、そのヒーローとヒロインたる≪つよし+けい子≫という兄妹、その2人のこんなエピソードが…(p.158, 『けい子とポニーテール』)。
シリーズ序盤ではロングだった髪の毛が、ショートボブになっているけい子。どうしたのかと親友の≪さつき≫が聞くと、けい子はジワ~と涙を流しながら事情を語る。
すなわち。たぶん前の日に兄のつよしが、『知ってるか? ポニーテールって 馬のしっぽっていう 意味なんだぜ』というフリの後、『もしかして… 肛門も?』と言い、ポニーに結われた妹の髪をグイとつかんで、背後から彼女の後頭部をチェキる。すると妹は、そこにはありもしない肛門を見られまいとしてもがき、『キャー!!』と叫ぶ。
…とまでの回想談を聞いたさつきは、何なのか『ガーン』と衝撃を強く受けて蒼ざめ、そして両目を大き~く見開いて『まさか…』と呟くのだった。という相手の反応を見たけい子は、こめかみに青スジを立てて『ないわよ』と言う。
このさい特に分析とかしないけど、兄のどうしょうもなきイチャモンをきっかけに、ありもせぬ部位に肛門があるかのような話になり、それを妹は隠さねばならなくなる。そして申すまでもないが、『まさか…』というリアクションがひじょうにいいところだ。
とまでを述べて思うのだが。単純に見た感じ、この「摩訶不思議」という作品は、黒ベタで描かれた学校の制服、主人公らしき兄妹の髪がまた真っ黒…という『黒さ』がきわだっている。りぼん掲載のギャグまんがはほとんど読んでいるけれど、画面がこんなに黒い作品は他にない(かつ今作は、『劇画タッチ』というのでもない)。
また、「摩訶不思議」ほどではないけれど、「先生あのね」にしてもじゅうぶんに黒い。ついでに申して、作家のペンネームが≪田村逍遥≫、そのデビュー作が「摩訶不思議」と、それらの字づらもひじょうに重い。で、それらの黒さと重さは、作中人物らの≪蒼い性≫のうっ屈を表して余すところがない、とも見れてくる。
書いていたらふと思い出した、次のようなネタもあった。「先生あのね」のヒロイン格の女児≪安藤奈津(あんどう・なつ)≫が、街で洋菓子店の『毛づくりケーキ』(!)という宣伝のぼりを見つける(p.125)。
それはもちろん、『手づくり』のまちがいだろう、と考えるのだが。しかしひじょうに気になったままで1年間、お店の人にそれを確かめることができない。
で、あまりはっきりも言えないことだが。女子も男子もうかつに≪オトナ≫になってしまったなら、何か『毛づくりケーキ』的なものを、喰わされるハメになるやも知れない。いやむしろ、大歓びでそれを食べるのかも知れない(!?)。そのことに対する少女の予感と≪不安≫がここには描かれている、と、われわれには読める。
≪毛≫という記号、その性的な記号に関連しては、「摩訶不思議」にも似たようなお話がある。けい子が自分のセーターのタグに、『毛100%』という文字を見つける。すると彼女は、
『何の毛か ものすごく 気になる
まだ鼻毛なら いい方だ』
…と、まったくらちもないことを考えるのだった(p.158)。
というわけで、日常的な展開の中に『摩訶不思議』が…。われわれの言う意味での≪不条理≫が、わりとかわゆいスタイルで侵入してくるという、この作者さまの作風。筆者はひじょうにいい、と思ったのだが。
しかしこの本が出た2001年あたりが、そのピークだったような現実はある。さいしょの方で今作を『全1巻』と申したが、実はそうじゃなく第2巻が出ていない。未刊分がだいぶあるのに。惜しいなあ…!
【付記】 今後いちいちおことわりしないが、これもまた、2009年の夏に書いていた堕文の再利用。しかし表題中の『スイーツ(笑)』という語はさいきん知ったばかりのもので、ついつい使ってみたかった(笑)。
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