2010/02/22

おおつぼマキ「ケンネル所沢」 - 犬狼伝説・色情編

筆者特有の想い込みなのだろうか、『ヤングサンデー誌掲載のギャグまんがには、≪ギャグ≫としてもストレンジなヤツが多い』、と思っているのだが?
という臆見は、阿部潤「the 山田家」、長尾謙一郎「おしゃれ手帖」、ロドリゲス井之助「踊るスポーツマン ヤス」…等々々を見たあげくに生じたようだけど。しかしもとはといえば、歴史的にこの媒体を代表してきたギャグ作家…喜国雅彦センセの作風もまあ、ストレンジかと言えるものではあり。

そして筆者が今作「ケンネル所沢」(1889, ヤングサンデーコミックス, 全3巻)を知ったのは、ほんの2ヶ月ほど前なのだが(注。この堕文は2009年夏にかかれたもの)。しかも、第1巻は未見なのだが。
にしても! …読んでその中身のあんまりなストレンジさには、思わず口があんぐりと大びっくりする以外になかった。

かの喜国先生にしてさえ、今作ほどにきもち悪い、胸くそ悪いことを描いてらした…という憶えがそんなにない。かつ、わりと小ぎれいな絵で描かれた今作からヂヮア~とにじみ出てくる気色わるさは、「おしゃれ手帖」の露骨な汚物っぽさとも異なる。
またこの本のカバーデザインが(パッと見では)、けっこうポップで見ばえがよい。ということが逆にまた、その中身のキモさをいっそうひき立てておるかなあ…などとも愚考しつつ。

そもそもだ、今作が≪ギャグまんが≫であるのか否か?というポイントで、筆者にはあんまし確信がないのだ(…同じ作者の「Mr.シネマ」とかいう作品は、明らかにギャグではなさげ。ちら見しただけだが)。
すなわち今作はひょっとしたら、ラブコメのつもりで描かれてるのではなかろうか?…という気がせぬでもない。よく青年誌に載っている、一線を越えそうでなかなか越えないカップルのモヤモヤを、延々と描くようなラブコメとして。ただし今作に描かれたカップルは、その一方がイヌだ。…と聞いて、びっくりされました? いまいち?

ご紹介していてため息の出そうな異常さだが、今作は≪リンチンチン≫というパクリっぽい名前で呼ばれるオス犬が、飼い主の少女≪チカ≫の貞操をねらってあれこれと、何かをはげむ…とゆう、実にたいへんなるしろものなのだった。
それがどうにもあんまりなキモさなので、おそらくはシャレのきつすぎる≪ギャグまんが≫であろう…とでも考えなければ、こっちの神経がやらレてしまうま。ふつうに考えて今作は、≪イヌのペニス≫とゆう物体を描写しすぎでおま!

かつ今作のキモさは、『イヌ畜生が人間の少女と交尾したがっている』…というポイントにのみあるのではない。単にそれだけだったら、かって大名作「がきデカ」に登場してた≪栃の嵐クン≫もやりたがってたことだし!
…1つ言うと、リンチンチン君のモノローグのニホン語がびみょうにおかしくて、

 『チチカちゃんは 相手にして くれないし、
 ややっぱオレが イヌだから わるいのは オレかこれが。』(第2巻, p.111)

のようなその不自由さが、みょうになまなましすぎていやだ。読んでてついつい引き込まれたとすると、自分までもがこのオス犬のように、不自由な単細胞エロバカ思考に陥ってしまうのでは…という怖さをひしひしと覚ゆる。
しかもプラス、ねらわれている少女チカもまたおつむがかなり残念だという設定が、またよくない。何かこう全般に、演出されたものでないナチュラルな頭の悪さがそこに描かれてあり、そしてそれがこっちへ伝染しそうな恐ろしさが感じられてならないのだった。

あわせて今作には、まともな常識ある大人がほとんど出てこないという特徴もある。チカの家族にしろその学校の先生にしろ、まったくまともな人間とは言いがたい。それがまた読んでいるものに『よるべなさ』という感覚を味あわせ、そして≪日常≫の感覚を見失わせてくれるのだ。

…等々と言っていたら逆に今作「ケンネル所沢」が、少なくともざらにはない創作ではあろう、という気はしてきた。いやじっさい、それはそうだろうが…!
(なお。書いていたら、≪イヌ×少女≫といえば「南総里見八犬伝」か、ということは思い出した。だが、そこで話をふくらまそうという気力はなかった)

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